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アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

中部地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋

249件の記事があります。

2011年06月16日この世で一番

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー 玉津佐知子

 この世で一番好きな鳥は、コアジサシだ。なぜ好きなのかというと、オスが男らしいからだ。最近の草食男子に見てもらいたい、と思うほど、その姿はたくましい。

    
*藤前干潟の初夏の主役コアジサシ(絶滅危惧Ⅱ類 VU)


 5月の半ばを過ぎたあたりから、「キリキリキィキィ」という鳴き声が響きわたる。藤前干潟の初夏の顔、コアジサシが繁殖のためにやってきたのだ。
全長は25センチ。初めて見た時、アジぐらいの大きさの鳥が飛んでいる、と思ったのだが、あとでその鳥の名前を聞いて驚いた。
 名前の由来のひとつに、空中から水中に突入して魚を捕る様子が、鰺刺(アジサシ)のようだ、という説があるほど、その動きは速い。鮎鷹(アユタカ)という別名もあるそうだ。

     
*ホバリングした後、水にダイビングして獲物を捕る。

 
 俊敏な動きで、餌を採っては、メスに届け、愛を告白する。そして愛が成就し、父となれば、コロニーで卵を抱く妻の元にせっせと餌を運ぶ。なんとも男らしいではありませんか!

     
*待っているメスのもとに餌を運ぶ。繁殖前には、オスがメスに獲物をプレゼントする「求愛給餌」が見られる。


 こんなコアジサシのような男性がいたら、わたしも結婚していたのにな~と、自分の欠点を棚に上げ、例年、空を見上げる事が多くなる初夏なのでした。


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2011年06月13日ちょっとちょっと!

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー 玉津佐知子

 数年前、「ちょっとちょっと!」というお笑いコンビのギャグが流行ったことがありましたが、今日は、「ちょっとちょっと!釣りをする皆さんへ」というお話です。

      
*庄内川河口付近では、餌をついばむカワウの姿を見ることができる。

 先週末、のんびりお昼ご飯を食べていたら、ビジターセンターに「カワウが釣り糸にひっかかってもがいている」という通行人の知らせが飛び込んできました。
 ビジターセンターのスタッフ、そしてお隣の名古屋市野鳥観察館のスタッフに声をかけ、現場にかけつけてみると、藤前干潟と呼ばれる中でも庄内川の河口部にある干潟近くで、一羽のカワウがもがいていました。

      
*羽根に釣り糸がかかってしまったようだ。(写真:名古屋市野鳥観察館)

 よく見ると、左羽根に釣り針がささり、その羽根から釣り糸が川岸に向かって伸びています。どうやら川岸の岩に根掛かりした釣り糸にからまり、それを振り払おうと、潜っては体を振り、潜っては体を振っています。が、潜る度に、釣り糸が首にまきついていくようです。
 「助けたい」。その場にいた3人の気持ちは一致し、胴長を着て川に入り、釣り糸をはずそう、ということで意見はまとまりました。
 一人を見張りに残し、残る二人で事務所に戻り、胴長をタモと準備。現場に取って返すと、見張りのスタッフが、腕でバッテンを作り、悲しそうな顔をしています。
 潜ったきり、出てこないというのです。
 潜った時に、また違う岩か何かに糸がからまってしまったのでしょうか。しばらく目をこらし水面を見つめましたが、さざなみが立つばかりです。

      
*二度とカワウは浮かんでこなかった。(写真:名古屋市野鳥観察館)

 そこにいてもどうしようもないことはわかっているのですが、その場から足が離れません。別のスタッフが、それとは違う岸の岩にかかった釣り糸を発見しました。

      
*悲劇が起きた岸。スタッフが別の釣り糸を回収した。

 藤前干潟周辺では、放置された釣り糸や釣り針による、渡り鳥の被害が相次いでいます。「ちょっとぐらい」という油断から、小さな命が失われています。
こうした悲劇を繰り返さないためにも、釣り人のみなさん。「自分が持ってきた釣り糸、釣り針は、お持ち帰りいただけないでしょうか。」
 そして悲劇を間近に見ているわたしたちは、水に浸かって数週間すると溶ける釣り糸が開発されないなかな、と願うのでありました。

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2011年05月23日「藤前干潟のクリーン大作戦」

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー野村 朋子

一週間ほど前の5月14日のことになりますが・・・、
藤前干潟とその周辺では、とある一大イベントが開かれていました。

その名も「クリーン大作戦」!

【市民の力で干潟がクリーンに。】

このクリーン大作戦、市民の力で藤前干潟と庄内川、新川沿いを
きれいにするゴミ拾いのイベントです。
春と秋の年2回行われており、今回で14回目の開催となりました。
そして、大作戦というだけあって、今回も約1,450名もの多くの人の参加があり、
約1,800袋(45Lのゴミ袋で)ものゴミが集められました。

【参加者集合!モリゾーとキッコロも応援に来たよ!!】

参加された皆さん、暑い中、そして干潟という足元の悪い中での作業、
とてもお疲れ様でした!

しかし、たくさん集まったゴミを見て、
干潟がきれいになったことに対する嬉しい気持ちの反面、
悲しい気持ちになったのは私だけでしょうか?

どうして、こんなにたくさんのゴミがあるのだろうか、と・・・。

ゴミの中で数が多いのは、何と言ってもペットボトルです。
その他に、ビニール袋、テレビ、ソファにおもちゃなど、
ありとあらゆるものがあります。
中には、釣り糸や針、割れたガラス瓶など危険なものも。

【あんなものやこんなもの・・・、】

【全てゴミです。】

実際、クリーン大作戦に参加されてゴミの量、種類に驚かれた方も多かったようです。
クリーン大作戦で藤前干潟のゴミ問題について感じ、
考えてもらえるきっかけとなれば幸いです。

そして、市民によるこの大作戦がこれからも続いていくと良いと思います。
(もちろん、拾うゴミがないことが一番良いことですが。)

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2011年05月11日神様からの衣装

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー 玉津佐知子

恋をする前に、新しい衣装を奮発してあげよう!と神様は考えたのだろうか。この時期、藤前干潟で餌をついばむ鳥たちの羽根は、一気に艶やかなる。
鳥に詳しい人なら、「夏羽に変わっただけ」と、思うのだろうが、そこはまだ鳥の初心者。
神様が、繁殖を前に粋な計らいをした、思ってしまいたくなるほど、鳥たちの羽は美しく変わるのだ。

   
   *ハマシギ 

 藤前干潟を代表する旅鳥のひとつハマシギは、冬羽は、ぼんやりとした灰褐色だったものが、頭頂と背からの上面の羽縁が赤褐色、風切が黒褐色にかわり、一段と色が濃くなったオスは、どこか守ってくれそうでもある。

   
   *ダイゼン

 同じく冬羽は、灰褐色だったダイゼンも、顔から腹までが黒、頭頂から背にかけて黒色斑が表れ、白と黒のコントラストは、自分はここにいると主張しているようだ。

   
   *ダイサギ

 旅鳥ではないが、この時期、クチバシが黒くなり、目先の色が緑に変わるダイサギも、恋のお相手を探しているようでもあり、
   
   
   *コサギ

 さらにコサギは、後頭に2本の長い冠羽、背や胸にも細長い飾り羽が出て、オスではあるがウェディングベールを思わせる。

 旅立ちを前にしたハマシギ、ダイゼンといったシギ・チドリ類は、自分たちが美しくなったことに関心を示す様子もなく、夢中で餌を食べている。北で繁殖をしなくてはならないからだ。
繁殖のために羽が変わるのか、羽が変わるから繁殖するのか、その答えはわからないけれど、こう思う。一生懸命な姿は美しい、と。

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【今がベストシーズンの藤前干潟】
 俳句の春の季語に「鳥帰る」があります。春、日本に秋渡って来て越冬した渡り鳥が、北の繁殖地に帰ることから、春の季語となったのですが、5月は、渡りを控えた冬鳥のカモたち、また夏羽に変わった鳥たちが観られるベストシーズンです。ぜひこの機会に藤前干潟にお出かけください。

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2011年05月06日「みどりのフェスティバル」出展!

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー野村 朋子

みなさん、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか?
ずいぶんと暖かくなり、お出かけされた方も多いかと思います。

中部地方環境事務所は、ゴールデンウィーク初日の4月29日に
瀬戸市の定光寺自然休養林で開催された「みどりのフェスティバル」に出展しました!

定光寺自然休養林 森林交流館前からの風景

みどりのフェスティバルは林野庁が主催しており、
木材を通して森林とふれあえるイベントです。

当日は丸太切り体験や火おこし体験、かんなくずのプールなど、
木材を用いたブースがたくさん出展されました。
この日は風が強かったものの、晴天に恵まれ、
多くの方が楽しんでみえました。

立ち並ぶブース


そして、我らが中部地方環境事務所のブースでは、
おりがみ講座「作ってみよう!森と海をつなぐいきもの」を行いました。
その名の通り、みなさんに森から海に生きる「いきもの」を折ってもらったのですが、
折ってもらった「いきもの」たちには「川」を通したつながりがあります。

みんな真剣に折っています


みどりのフェスティバルの開催地である定光寺自然休養林の周辺には、
「庄内川」が流れています。
この「庄内川」、藤前干潟に注いでいる3つの川のうちのひとつなのです。

そこで、この定光寺休養林<森>から藤前干潟、さらには伊勢湾<海>へと流れる、
この庄内川の周辺に生きる「いきもの」をおりがみで折ってもらい、
いきものとその周辺の環境について考えてもらいました。

そして折ったおりがみを森、川、海を背景にした台紙に貼ってもらったところ・・・、

できあがりました

ドングリ、テントウムシ、キノコ、フクロウ、クジラやエイなどなど、
こんなにたくさんのおりがみの「いきもの」でいっぱいになりました!!

参加してくださったみなさん、ありがとうございました。

みなさんに作ってもらったこのおりがみの「いきもの」でいっぱいの台紙は、
夏休み期間中、稲永ビジターセンターにて展示予定です。

藤前干潟にもいきものが溢れています。
干潟のいきものにも会いに来て、森と干潟、そして海をつなぐ庄内川と、
その周辺のいきものたちに思いを馳せてみてくださいね!



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2011年04月18日旅立ったスズガモ

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー 玉津佐知子

 藤前干潟は、この季節、干潮時は、野鳥がたわむれ、潮が満ちると、釣り人がやってきます。
 こう書くと、大都会名古屋市の中にあって、自然と寄り添える場所、と思う人もいるかもしれませんが、それゆえの悲しい事故も起きています。

   
*満潮時は、釣り客も訪れる藤前干潟。

 先週末、事務所に「干潟でスズガモが死んでいる」という声が飛び込んできました。
 職員一同、言われた場所に急いでかけつけると、岩にはさまるようなカタチで一匹のスズガモが横たわっていました。よく見ると首の後に釣り針がかかり、釣り糸が首にからみついています。
 潜って餌をとっている時、根掛かりした釣り糸に掛かってしまったのでしょう。微動だにしません。

   
*一報を聞き、「高病原性鳥インフルエンザ」を疑った佐藤R(左)と4月からのニューフェース野村AR。

   
*根掛かりした釣り糸で身動きできなくなったスズガモ。

 スズガモはいわゆる「冬鳥」で、10月頃にこの地に飛来し冬を過ごし、5月の連休前から、繁殖のため、再び生まれ故郷を目指します。
 旅立ちの前に、さぞかし無念だっただろうな、と思った時、スズガモの羽が動きました。「生きている!」。 
 そこから、お隣の名古屋市野鳥観察館のスタッフとの救出が始まりました。まず、岩にひっかかっていた釣り糸を切り、傷ついたスズガモを段ボールに入れ、観察館に運びました。

   
*釣り糸の長さは160㎝もあった。

 そこで、首にささった釣り針を抜き、からまった糸を丁寧にはずしていきました。はずした釣り糸の長さは、1メートル60センチ。その先には、テンビン、オモリもつながっていました。
 クビまわりがスッキリしたせいか、幾分顔色もよくなり、体温も少し上がってきました。
 しばらくすると、早く外に出して、といわんばかりにスズガモはしきりと羽を動かすのですが、なかなか飛び立てません。
 そこでその日は、大事をとって、一晩、名古屋市野鳥観察館で作った段ボール箱の家で休んでもらうことにしました。

   
*段ボールの家で休むスズガモ。

 元気になったら、翌日、放鳥する予定でした。しかしその日の朝、観察館のスタッフが出勤すると、スズガモはもう冷たくなっていたそうです。
 
 首の後に針がささっても、釣り糸がからみついていても、生きていたスズガモ。お前ほどの生命力があったら、故郷まで飛んでいくことができただろうに。秋にはこどもを連れて、この藤前干潟に戻って来ただろうに。
 今朝は、見慣れた藤前干潟が、かすんで見えました。

    
*スズガモ舞う藤前干潟

【名古屋自然保護官事務所からのお願い】
 藤前干潟は、日本有数の渡り鳥の飛来地です。このところ、捨てられた釣り用具やゴミで傷ついたり、亡くなったりする鳥が増えてきています。持参したゴミはぜひお持ち帰りください。よろしくお願いします。

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2011年04月15日「藤前干潟に春到来! でも・・・」

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー野村 朋子

みなさま、初めまして。
4月より名古屋自然保護官事務所の
アクティブレンジャーになりました野村です。
藤前干潟の魅力を伝えていけるよう一所懸命
頑張っていきますので、よろしくお願いします。

さてさて、今年の冬はとても寒く、
春を待ち望んでいた方も多かったと思いますが
やっと本格的に暖かくなってきましたね。
稲永公園では今週初めに桜が満開となりました。



穏やかな日差しの中、
満開の桜の花を見ながら鳥たちの鳴き声を聞いていると、
本当に夢見心地です。

しかし、その目線を下に落としてみると・・・、


残念な光景が。
お花見で出たであろう大量のゴミが放置されていました。
これでは、せっかくの桜も台無しです。

既に知っている方も多いかと思いますが、
藤前干潟はゴミの処分場としての埋め立てから
市民活動によって守られた場所です。
そんな藤前干潟を臨む稲永公園に放置されたゴミを見て、
大変悲しい気持ちになりました。

これからは行楽シーズン。
外で遊ぶことが多くなりますが、
屋外で出したゴミは持ち帰りたいものです。

桜も素敵なのですが、藤前干潟と言えば「鳥」ということで、
最後に野鳥観察会のご案内です。
5月8日(日)にNPO藤前干潟を守る会と
中部地方環境事務所の共催イベントとして、
「シギチドリウォッチング」を開催します。

春、シギ、チドリははるかオーストラリアから
小さなからだひとつで藤前干潟にやってきます。
そして、ゴールデンウィーク前後は、
たくさんのシギ、チドリが見られる絶好の野鳥観察シーズンです。

この機会にシギ、チドリを実際に見て、
渡り鳥の「いのち」のたくましさと、
たくさんの「いのち」をはぐくむ藤前干潟の魅力を感じませんか?

観察会の詳細は以下です。
応募をお待ちしております!!
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◆シギチドリウォッチング◆
開催日時:5月8日(日)13:30~15:30
   (雨天時は屋内のみのプログラムとなります)
定員:20名(申込先着順)
対象:幼児~大人 (ただし、小学校3年生未満は保護者同伴)   
開催場所:稲永ビジターセンター(名古屋市港区野跡4-11-2)
  13:30に現地集合
参加費:大人200円、小学生100円、幼児無料
持ち物:水筒、タオル、着替え、帽子、汚れてよい服装・靴 

申込・問い合わせ先:稲永ビジターセンター(TEL:052-389-5821)
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2011年03月22日受け継いでいく意義 ~愛知ターゲットに向けて~

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー 玉津佐知子

 生物多様性の保全は、当然のことながら1日でできるものではありませんよね。長年の積み重ねがあって、「生態系」や「種」は守られていくわけですが、その保全の条約ができるまでにも、長い道のりがあったことを皆さんは、ご存じだったでしょうか?

       

 *「名古屋議定書」「愛知ターゲット」が採択された名古屋国際会議場

 そのことを知ったのは、中部地方環境事務所が開催した勉強会でのこと。実は中部地方環境事務所では、COP10が終わって以降も、2020年までの「国連生物多様性の10年」を広めるため、「生物多様性」に関するシンポジウムや勉強会を開催しています。
 1月7日に開催された「国連生物多様性の10年キックオフ記念勉強会」では、元IUCN副会長であり、前千葉県知事の堂本暁子さんをお招きして「生物多様性 リオからなごや『COP10』、そして…」の講演をしていただきました。
 この講演のタイトルは、実は堂本さんの著書の名前。元IUCNの副会長として、生物多様性の成り立ちからを見てきた人ならではの話が展開されました。

        

 *堂本さんの講演は、COP10開催地となった愛知・名古屋市民への
  お礼の言葉で始まりました。
 
 堂本さんが副会長を務めていたIUCN(国際自然保護連合)は、1948年に創設された国際的な自然保護団体です。その成り立ちは、第二次世界大戦で使われた毒ガスでヨーロッパを中心とした世界の自然が壊されたことに遡ります。
 政府だけではない組織、ということで、政府代表とNGO、NPOそして専門家が参加してスタートし、ここからワシントン条約、ラムサール条約、ボン条約といった国際的に重要な条約の大もとが作られていきました。
 堂本さんの言葉を借りるなら、「ワシントン条約、ラムサール条約、ボン条約は、パーツの保全」。80年代に入ってから、「地球を覆う条約が必要なのではないか」、という議論が起こり、こうして「生物多様性」という考え方が出てきたそうです。
 IUCNの「生物多様性」の概念は、 生命が誕生してから40億年という時間軸を取り、エネルギーの循環、水の循環など、地球上のあらゆる自然の循環を考えるダイナミックなものです。
また、IUCNは、レッドリストを出し、絶滅していく生き物を取りあげ、地球の実態も紹介していきました。
 こうしたIUCNなどの自然保護団体の要請を受け、国連環境計画は、「生物多様性条約」の準備を開始します。しかし1990年11月以降、7回に渡って開催された政府間交渉会議では、思わぬ事態が待ち受けていました。
 会議の議題となるのは、いつもIUCNの素案とはほど遠い、「遺伝子資源」「知的所有権」「バイオテクノロジー」「技術移転」「資金援助」のことばかり。1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議で生物多様性条約が調印され、1年間で168の国と機関が署名し、1993年12月に発効しますが、国の利害がぶつかりあった結果としてまとまった合意内容は、これまで行われてきた世界の 環境会議の内容よりはるかに後退したものとなってしまったそうです。
 これについて堂本さんは、国同士の利害がぶつかった時、世界の意志をどうまとめるかは、非常に難しい問題である、と述べていました。

   

  *最後まで、熱気に包まれました勉強会。

 こうしたこれまでの事情を知り、昨年(2010年)愛知・名古屋で開催されたCOP10で、人類が自然と共生する世界を2050年までに目指す「愛知ターゲット」が採択されたことを思うと、これまでの道のりの長さを感じずにはいられません。
 著書の題名でもあり、また講演のタイトルともなった「生物多様性 リオからなごや『COP10』そして…」で、堂本さんが伝えたかったのは、「COP10を終えて、日本が世界をリードしていくために、内閣総理大臣以下日本政府が、「生物多様性を主流化していく」といった意志を示して欲しい、ということでした。これまでの歴史を目の当たりにしてきた堂本さんならではの言葉だと思いました。

 生物多様性を切り開いた人がいて、守る人がいる。そしてそれを受け継いでいくことがどれほど重要なことか…。
 受け継ぐ意義を、いま一度考えてみたいと思いました。






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2010年10月14日中部生物多様性物語Ⅱ 絶滅から生まれた名物

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー 玉津佐知子

 名古屋に「守口(もりぐち)漬け」という名物があるのをご存じでしょうか? 
 「えっ!エビせんべいしか知らない?」 実は、そのエビせんべいときしめんと並ぶ名古屋の名物が「守口漬け」。名古屋駅のお土産売り上げベスト3にランクインするほどの人気なんです。
 さてそんな名古屋を代表する味の「守口漬け」ですが、名古屋生まれかというと、さに非ず。発祥の地は、河内の国の守口(大阪府守口市)。守口周辺の伝統野菜である守口大根を使って作られたため、その名が付いた、と言われています。
 それがなぜ、名古屋名物になったかというと、実はここから生物多様性が関係してきます。

    

  *名古屋名物の「ひつまぶし」に必ず付いている守口漬け。
   写真は、名古屋駅で販売されている「日本一名古屋の抹茶ひつ
   まぶし弁当」。協力:株式会社だるま。

 守口大根は、16世紀から20世紀の初頭にかけて、現在の大阪府大阪市から守口市にかけての淀川沿いで栽培されていました。
 守口大根に適しているのは、柔らかく均質な土壌が堆積し、中に石ころや固い層を含まず、土壌の通気性がよく、地下水位が低い場所。それを満たすのが、守口周辺の淀川周辺だったというわけです。
 守口大根は、主として守口漬けとして使われ、あの豊臣秀吉や千利休も食し、やがて東海道の「守口宿」の名物と称されるようになりました。 
 しかし19世紀に始まった淀川の河川改修工事で、河川沿いの環境は激変。これにより守口周辺での守口大根は絶えてしまいます。 
 大阪市守口市の産業農政課の担当者の話によると、いま淀川周辺を掘り起こしても、堆積層がまったく見あたらないそうです。このことから、いかに河川改修が淀川周辺の環境に影響を及ぼしたかを想像することができます。
 守口大根の消滅とともに、絶えてしまった守口漬け。しかし遠く離れた濃尾平野でよく似た種の大根があることから、再生が試みられます。 

    

  *守口大根の日本一の産地を支える「木曽川」。

 栽培の地となったのは、淀川沿いとよく似た環境の木曽川沿いの愛知県丹羽郡扶桑町と、長良川沿いの岐阜県岐阜市。今、扶桑町は、守口大根の生産量日本一の町となり、この二つの産地が、名古屋名物「守口着け」の製造を支えています。
 名古屋に来たら、ぜひご賞味ください。

    

  *これが守口漬け。材料の守口大根は、約1メートル50センチの
   長さがあることから、日本一長い大根と言われている。


 

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2010年10月01日中部生物多様性物語Ⅰ 世界記録を支える森

国指定藤前干潟鳥獣保護区 名古屋 アクティブレンジャー 玉津佐知子

 COP10の開催を記念して、開催地、愛知・名古屋から、地元にまつわる生物多様性の話を紹介していきたいと思います。
 まず第一弾は、愛知県が生んだヒーロー、大リーガーイチロー選手に関わる生物多様性のお話です。

    
*10回目の締約国会議(COP10)が開催される名古屋国際会議場。

 9月23日のブルージェイズ戦で、前人未到の10年連続200安打を達成したイチロー選手。そのスーパースターと、生物多様性がどうして関係あるの?と思った人も多いことでしょう。しかし大記録を打ち出したバットは、何でできているでしょうか?そうです。木で出来ていますよね。
 イチロー選手のバットは、「アオダモ」という木で作られています。アオダモは、しなりがあり、金属音に似た音を発するため、イチロー選手に限らず、バッターが好む木でもあるそうです。
 長年イチロー選手のバットを作り続けているミズノテクニクス・プロバットマイスターの久保田五十一さんによると、年間、イチロー選手のために作るバットは、練習用も含めて120本。そのためには1万本の木が必要だといいます。 というのも、イチロー選手は、道具へのこだわりは強く、出す指示もグラム単位。ミリ単位。その結果生まれたのが、バットの長さは、85㎝。太さは一番太いところで、62.5㎜。重さは、880~900gというサイズ。
 さらに良い木でできたバットは、良い音がする、と、久保田さんがバットを実際に叩き、120本を選り分けるといいます。


     
     *イチロー選手が実際に使うバット。
       (写真)株式会社ミズノより提供

 豊かな材料と、職人の技から生まれるバット。では、良い音がする良い木とは、どういう環境で作られているのでしょうか?
 実際に山を歩き、バットにする木を選別する久保田さんの話によると、良い木が育つ良い森とは、鳥類が集い、昆虫が生息し、多様な生物が生きる森だといいます。つまり生物多様性に富んだ森。

    
   *植樹は、地元のこどもをまじえて行われました。
    (写真)株式会社ミズノより提供

 イチロー選手のバットを作り続けている久保田さんは、2005年より、親会社である株式会社ミズノが、岐阜県高山市にある「オークビレッジ」と共同で行っている「バットの森・記念植樹に」に参加し、こんなコメントを残しています。
 「バット作りにたずさわっていた自分が、バットの材料であるアオダモをもう一度山に戻すことができて幸せだ」、と。 
 イチロー選手の記録は、生物多様性と、その豊かな森を守ろうとする人々の気持ちによっても支えられている、と言えるのかもしれません。

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