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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

槍ヶ岳登山道調査[前編](白出沢~槍平小屋~槍ヶ岳)

2008年08月29日
松本
標高3,180mの槍ヶ岳は、その名の通り鋭利な姿の美しさから多くの登山者が憧れを抱く山です。
槍ヶ岳への登山道はたくさんあり、頑張れば1日で到達できる上高地から入るルート、燕岳から大天井岳などを経て槍を眺めながら尾根を縦走する表銀座ルートなど、東側からのアプローチが人気です。今回は反対の西側から入るルートの1つで、新穂高温泉から右俣谷沿いに登るコースの調査を行いました。

せっかくの短い夏山シーズン中ですが、8月後半から日本列島付近に前線が停滞し、不安定な天気が続いています。いくつもの沢を渡っていくこのルートは雨の影響を受けやすく、前日は滝谷の沢が増水し通行不能だったそうです。

今日は雨さえ降らなかったものの、濃霧と強風で体感温度は日中でも5度程度でしょうか。まだまだ高山植物も楽しめますが、今回はあえて悪天候時の高山の厳しさをお伝えしたいと思います。

前述のとおり、このルートはいくつかの大きな沢を超えていきます。通常はほとんど水は流れておらず、大きな岩石がごろごろしているだけで、広々して視界が開けることから、沢のど真ん中で一休みしていく登山者が多いです。!!!しかし!!!上流で雨が降っていれば、いつ鉄砲水が押し寄せるか分かりません。その場の天気がどんなに良くても沢は気をつけてください。木や草が生えていなければ、時々流れているということが推測できます。

通常8時間かかるコースですが、展望もきかず暑さによる疲労も少ないためか、黙々と歩いて5時間で着いてしまいました。そんな訳でいきなり山頂です。

山頂直下にある槍ヶ岳山荘から、ガスの間に槍の穂先が望めます。山荘から山頂までは通常30分程度ですが、岩場の狭いルートなので混雑時には渋滞します。山頂もスペースが狭く、順番待ちになることも。必要最小限の荷物だけ持って、譲り合いながらゆっくり進みましょう。

特に危険な個所にははしごや鎖が設置されていますが、鎖だけに頼るのは不安定で危険です。できるだけ岩の凹凸を利用して両手両足をフル活用。岩は濡れると滑りやすくさらに危険。

山荘横のキャンプ場。この悪天候にもかかわらずテントで頑張る人たち。写真ではなかなか伝わりませんがかなりの強風です。息を吸わなくても勝手に空気が喉の奥まで入ってきます。そして霧の向こうはがけっぷち。こんな時は山荘に泊まってほしいところです。

この悪天候でお盆以降荷揚げのヘリが飛べず、山荘の食材も底をつきかけている様子。人気のコーヒーは既に品切れとなっていましたが贅沢は言えません。こんな厳しい環境の所で食事が提供されていること自体、特別なことなんですよね。昔は全て自分で担いで登れる人しか来れなかった秘境も今では大勢の人が楽しめるようになりました。ただし、くれぐれも装備は怠らず、自分の体力を自覚し、悪天候時には断念する勇気を忘れないでください。