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アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

中部地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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2021年10月

13件の記事があります。

2021年10月15日旧日電歩道補修工事 完成検査

中部山岳国立公園 立山 平松新一

こんにちは。中部山岳国立公園立山管理官事務所の平松です。

旧日電歩道は、下ノ廊下とも呼ばれている黒部ダムから仙人谷ダムまでの黒部川沿いのルートです。そこは優れた渓谷美を有している反面、断崖絶壁など危険箇所も多い、上級者向きのルートです。この歩道は関西電力が管理しており、例年補修工事を終えた9月下旬以降に開通します。今年は10月8日に、関西電力による歩道の完成検査があり、私はその検査に同行しました。

 <黒部ダムから歩き始めます>

 <はじめは黒部川の流れも緩やかです>

スタートは黒部ダムです。ここから内蔵助谷出合までは急峻な場所は少なく比較的ゆったりと歩くことができます。しかし、そこを過ぎると道はどんどん険しくなり、幅が1メートルにも満たない断崖絶壁の道が何カ所も現れるようになります。途中途中にある丸太を組んだ橋やはしごは、毎年補修工事で設置しているそうです。聞いたところでは、毎年のようにどこかの岩盤が崩れ、そのために新たに橋を架ける箇所も出てくるそうです。

   <岩盤を削ってできた道>

 

<切り立った崖にかかっているはしご>

   

<気の抜けない断崖の道>

道は高いところでは谷から100mもあり、目もくらむほどです。新越沢や別山谷を過ぎ、白竜峡、十字峡、S字峡などの景勝地を横目で眺めながら、8時間ほどかけて仙人谷ダムに到着することができました。

<十字峡>

<S字峡>

このルートは昭和4年に完成したそうです。まだちゃんとした機械や道具もない時代、こんな危険な場所によく道を作ったものだと、先人たちの力には感心するばかりです。現在も、毎年補修する方々の努力があってこそ、私たちが歩けるようになっています。ただ、旧日電歩道に限らず、どの登山道でも多かれ少なかれこのような努力があって道が維持されているのでしょう。そう考えると、私も今後登山道を歩くときには、それらの方々の努力を思い、感謝せねばと強く思いました。

 

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中部山岳国立公園では、新型コロナウイルス感染拡大防止に関する政府や各自治体の方針を受け、「新しい生活様式」に沿った慎重な行動をお願いしています。中部山岳国立公園へお出かけの際には、各自治体や訪問先が発信している情報を事前にご確認いただき、3つの密の回避や手指の消毒など、感染防止対策にご協力ください。みなさまのご理解ご協力をお願いいたします。

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2021年10月15日<2>後立山連峰縦走線歩道(鹿島槍ヶ岳から五竜岳)

中部山岳国立公園 後立山 福澤春彦

こんにちは中部山岳国立公園管理事務所の福澤です。

先日の船窪岳に続き、八峰キレットを通過する鹿島槍ヶ岳から五竜岳の縦走路を巡視してきましたので報告します。

9月29日、後立山担当管理官と登山口の扇沢出合より入山し爺ヶ岳を越え冷池山荘に入りました。扇沢出合から種池山荘まで、爺ヶ岳南尾根の東斜面に付けられた柏原新道を登ります。この登山道は山の斜面を利用して造られており、緩やかに高度を上げながら稜線まで達することできます。柏原新道は種池山荘、冷池山荘の(故)柏原正泰さんによって拓かれた爺ヶ岳や鹿島槍ヶ岳へのメインルートです。

<柏原新道登山口>

支尾根から取り付きやや急な登りですが、斜面に入ると歩きやすい勾配の登山道が続き、種池山荘に到着しました。

<歩きやすい登山道>

種池山荘では柏原さんから登山道整備や山小屋の近況などお話を伺うことができました。

小屋で企画した種池山荘オリジナルのピザがSNSや口コミで人気となり売り切れになるほどだそうです。

<縦走路の稜線上にある種池山荘>

https://kasimayari.jp/

<名物の種池ピザ>

種池山荘から後立山縦走線です。東に向かう縦走路は爺ヶ岳からは北へ、日本海に向かって縦走路は続きます。

登山道は整備され、岩稜帯の道ですが歩きやすいです。

ただし、爺ヶ岳南峰など広い尾根では視界が悪くなると登山道を見失う危険が潜んでいます。特に森林限界を超えた岩稜帯の広い尾根は登山道を外れないようマーキングや地図を頼りに進むことが必要となる場面があります。

<爺ヶ岳への縦走路>

爺ヶ岳南峰、中峰、北峰と越え冷乗越から軽く登り返すと冷池山荘に到着です。

冷池山荘ではコロナ禍でオリジナルな対応をしていました。

<冷池山荘>

https://kasimayari.jp/

それは宿泊客で外履き(サンダル)内履き(スリッパ)が共用されないよう、個々に下駄箱がセットされていました。多くの山小屋でコロナ感染症に対策できることを形にして実践されています。

<各人に割り当てられた下駄箱>

9月30日は快晴、真っ赤に染まる朝焼けと大パノラマを見ることができました。今日は縦走路の核心部である鹿島槍ヶ岳から五竜岳の岩稜帯を行きます。

<朝焼けの鹿島槍ヶ岳>

素晴らしい天気の中、布引岳(2683m)を越え鹿島槍ヶ岳南峰(2889m)に到着しました。縦走路の東は奥深い黒部の谷、そして谷を挟んで立山連峰から剱岳が常に見えています。振り返れば爺ヶ岳、遠景には穂高連峰から槍ヶ岳まで見渡せます。

<黒部の谷を挟んで聳える立山連峰>

<爺ヶ岳からの縦走路 遠景は穂高・槍方面>

ここまでの登山道は岩も安定しており、はっきりと"登山道"と認識することができ危険箇所はありませんでした。

鹿島槍ヶ岳南峰頂上で休憩を兼ね360度の景色を堪能し、ヘルメットと簡易的な自己確保ができるようスリングとカラビナを装着、いよいよ難路に入っていきます。

先ずは南峰を降るのですが、体感として登山道が一変したのが分かります。それは急斜度、岩の不安定、登山道脇の切れ落ちなど、ここまでの登山道から一変、危険だと感覚的に察知する必要があります。先日も南峰直下で滑落事故が発生したとのことで、冷池山荘のスタッフが現場確認に登られていました。

<鹿島槍ヶ岳南峰の降り>

鹿島槍ヶ岳北峰を通過し、いくつか岩場を越して縦走路最低鞍部に向かっていきます。写真のように急斜面、かつ浮き石もありますので落石を誘発しないよう注意深く丁寧に足を運ぶ必要があります。

<キレットに向かう岩稜帯の降り>

八峰キレットは高度感のある登り降りですが、鎖や梯子が付いていますので安全に通過することができました。このような場所では登山者のすれ違いが大きな事故に繋がりかねないので、お互いの状況を口頭で伝え、「進む」と「待つ」をはっきり確認することが重要です。不用意に行動すれば、すれ違うザックがお互い触れただけで足を踏み外すなど思いがけない危険が潜んでいるからです。

<八峰キレット>

<八峰キレットを越えキレット小屋を見下ろす>

キレット小屋は稜線上からのぞき込むと凄い場所に建っていることが分かります。

カクネ里氷河を見下ろす鞍部に張り付くように建っています。

鹿島槍ヶ岳と五竜岳を縦走する場合、ほぼ中間地点に位置しており登山者の安全を見守ってくれているような気がします。

小屋の営業は縦走両端の山小屋より早いため、事前の確認が必要です。

今年は10月2日で営業が終了しました。

キレット小屋より五竜岳に向けて大小いくつものアップダウンを繰り返しながら全体的には標高を上げていきます。口の沢のコルと呼ばれる平坦地で休憩した後、いよいよ五竜岳への登りです。この稜線は八峰キレット同様の難所と言われる稜線で、特にG5、G4(Gはグラードの略でドイツ語の岩稜の意味)と名付けられた岩稜帯はクライミングとクライムダウンが必要です。岩にはマーキングがありますので慎重に手足を運べば安全に通過できます。但し、岩場のマーキングは降りの際に見えにくいもので注意が必要です。

<岩場をいくつも登り降りしながら高度を上げていきます>

<G5とG4を越えて五竜岳に続く縦走路>

G4を登り切れば、あとはガラガラとした岩が堆積する急斜面を詰め五竜岳頂上(2814m)に無事到着しました。鹿島槍ヶ岳から五竜岳頂上までは、体力的にも技術的にも長野県が発表している「山のグレーティング」で上級者向け登山道であることが分かります。https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/sangyo/kanko/gure-dexingu.html

頂上では雲で眺望は得られませんでしたが、新しくなった頂上標柱を確認できました。

頂上(G3)よりG2、G1、G0と岩稜の尾根を降って五竜山荘に到着です。

この頂上直下の岩稜帯と岩が詰まった狭い谷(ガリー)が遠目からは菱形に見え、有名な五竜の雪形「武田菱」となって現れます。

<五竜山荘>

https://hakuba-sanso.co.jp/yamagoya/goryusanso.html

五竜山荘は白岳と五竜岳の稜線鞍部に建つ山小屋で、遠見尾根や唐松岳方面からの登山者にとって重要な拠点です。

食堂でもコロナ感染症対策も徹底されており安心して登山者が宿泊できる山小屋でした。

最終日は、遠見尾根を降りました。

白岳から白馬五竜スキー場に続く長大な遠見尾根は、北アルプスの撮影ポイントとしても有名で沢山の登山客が往来するところです。

白岳直下に鎖場が数カ所あり、特に降りでは注意する必要があります。

<白岳下の鎖場は4箇所>

以降は尾根沿の登山道で、小さなアップダウンを繰り返す歩きやすい登山道です。

<遠見尾根の木製階段>

遠見尾根は、木製の階段や木道があり歩きやすいよう工夫のある施工がされています。

中には破損した箇所も見られましたが、安全に降ることができました。

最後は白馬五竜スキー場のゲレンデトップに出て今回の登山道巡視は無事終了しました。

<遠見尾根の木道>

<地蔵の頭ケルン>

今回の登山道巡視で、登山道は山小屋によって安全に維持管理できていることが確認できました。鹿島槍ヶ岳から五竜岳の縦走路では、鎖や梯子、また岩場のマーキングなど安全のための施工がされていました。但し、この長い距離(約4.5km)の岩稜帯を歩き通す登山者自身の歩行技術が前提となることは言うまでもありません。

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中部山岳国立公園では、新型コロナウイルス感染拡大防止に関する政府や各自治体の方針を受け、「新しい生活様式」に沿った慎重な行動をお願いしています。中部山岳国立公園へお出かけの際には、各自治体や訪問先が発信している情報を事前にご確認いただき、3つの密の回避や手指の消毒など、感染防止対策にご協力ください。みなさまのご理解ご協力をお願いいたします。

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2021年10月15日<1>後立山連峰縦走線歩道(烏帽子から船窪)

中部山岳国立公園 後立山 福澤春彦

こんにちは中部山岳国立公園管理事務所の福澤です。

いよいよ秋の気配が感じられる今日この頃ですが、一足早い秋を迎えている後立山の登山道巡視を2箇所、2回に分けて行ってきました。

1箇所目は、急登と急降下を繰り返すうえ山の崩壊が激しいことから難路とされている烏帽岳から船窪岳の縦走路、2箇所目は、北アルプス岩稜帯縦走の代名詞の一つ八峰キレットを通過する鹿島槍ヶ岳から五竜岳の縦走です。

今日は烏帽岳から船窪岳の縦走路を報告します。

9月16日、登山口の七倉より入山し烏帽子小屋で後立山担当の管理官と合流しました。管理官は新穂高温泉より入山、三俣山荘に一泊したあと烏帽子小屋で合流です。

タクシーを利用される方が多いですが、歩いて源五郎沢トンネル(隧道)を抜けると視界に飛び込んでくる日本第2位の高さを誇る高瀬ダムは圧巻です。

大きな岩を積み重ねたロックフィル式ダムの法面をジグザクに車道を登り詰めるとコバルトブルーの高瀬湖が目の前に広がります。

<日本第2位の高さ ロックフィル式の高瀬ダム>

真っ暗な不動トンネルを抜けると目がくらむような白い情景が飛び込んできます。

真砂土です。まさに今回の巡視ルートの稜線が正面に見えますが、濁沢と不動沢から崩壊した花崗岩が風化した大量の真砂土が堆積しているのです。

<遠景は今回の縦走路 手前に真砂土が堆積>

電力発電への影響を抑えるため真砂土を取り除く大型ダンプカーがローテーションで何度も何度も運び出していました。

砂漠のような一帯を抜け濁沢を渡ると登山口です。ブナ立尾根は日本三大急登の一つですが、よく整備されており安心して登ることができました。

<ブナ立尾根登山口 標高毎に12の看板が示してあります>

烏帽子小屋の上條さんが中心となり登山道整備や縦走路の貴重なお話を伺うことができました。http://home.384.jp/eboshi2628vera/

<烏帽子小屋と烏帽子岳方面>

二日目は、管理官と二人で烏帽子から船窪の縦走路を巡視です。

烏帽子岳を左手に見ながら縦走路に立つと南沢岳から不動岳の間が崩壊し山の地肌が剥き出しになっています。崩壊地帯の稜線鞍部が南沢乗越で、ロート状に落ち込む濁沢へ崩壊した土砂が集まっています。

<南沢乗越の崩壊地帯>

近づいてみると、やはり年々確実に崩壊が進んできているようです。

登山道は稜線中心に付いていますが、稜線が浸食されたため今は安全を期して所々富山県側の樹林帯を通しています。しかし崩壊場所の際を通る登山道も存在しており、細心の注意が必要です。具体的には、岩稜帯の登山とは大きく違い、砂状になった花崗岩の斜面を登り降りするには登山靴の特性の一つであるフリクションを最大限活用し足裏全体が地面に接着すること、加えて小股で歩くことが肝要です。

<崩壊地を回避するため樹林帯を通る>

<崩壊地の際を通る登山道>

不動岳を通過し樹林帯の登降で安心したのもつかの間、今度は船窪岳までさらに難路となります。濁沢同様ですが上部の崩壊が全体的にロート状になった不動沢や支沢に向かって落ち込んでいます。

<不動岳から船窪岳方面の崩壊>

いくつかピークを登り降りして、最高点ピーク(2459m)からが一番の難所です。先ずはピークからの降りで補助ロープを頼りに30m強の急斜面を下降するところ。岩場だとクライムダウンとしてステップやホールドを繋ぎながら降りるのですが、砂化した花崗岩の崩壊した急斜面です。補助ロープがフィックスされていましたが、もしなければ自前のロープが必須となるルートです。

<補助ロープを頼りにトラバースする核心部>

<補助ロープを頼りに約30m下降する核心部>

さらに登りでは、崩壊地がリッジ状になっており整備された鉄パイプを頼りに対岸へ渡り、さらに尾根の取り付きに梯子を登り一安心する場所です。

<リッジ状の崩壊地は鉄パイプが組まれている>

<難所を越えて船窪岳となる>

船窪小屋による整備のおかげで登山道として通過できるようになっていましたが一歩一歩注意が必要な箇所でした。船窪岳を通過し七倉岳に向けて樹林帯の中を登り返すと船窪小屋です。登山者の安全を祈願する五色の旗(タルチョ)が迎えてくれます。

船窪小屋はランプの宿として有名です。長らく松澤宗洋さん夫妻が小屋を守ってこられましたが5年前に引退され、宗洋さんがこの8月25日他界されました、心よりお悔やみ申し上げます。

https://funakubogoya.net/

3日目は七倉への下山です。この七倉尾根はブナ立尾根に劣らず急勾配です。

特に樹林帯の急勾配箇所は、木々が登山道に露出しています。

<連続する樹木状の登山道>

晴れて木々が乾燥していれば急勾配の登山道で足がかり手がかりとして有効な木々も雨の日や濡れている場合は大変滑りやすく、最大限の注意が必要です。

梯子も連続するくらい急勾配の七倉尾根は、一瞬のスリップが大事故に繋がりかねません。特に降りの際は、注意深く歩きましょう。

<無事に七倉登山口に到着>

今回の縦走路は、全体的にアップダウンが激しく、登山道の大半で注意深く歩くことが必須となるため、体力的にも精神的にもハードな登山となります。

<アップダウンが連続する断崖を行く>

崩壊箇所は補助ロープや鉄パイプ、また梯子などが設置されており、登山道として通過することが可能であると確認できました。

しかし崩壊は今後も進み、樹木の根が崩壊浸食で辛うじて稜線に張り付いている箇所も散見されました。

この登山道は、北アルプス北部と裏銀座ルートを繋ぐ貴重な縦走路であることから、登山の重要拠点である烏帽子小屋と船窪小屋の情報に注視して下さい。

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中部山岳国立公園では、新型コロナウイルス感染拡大防止に関する政府や各自治体の方針を受け、「新しい生活様式」に沿った慎重な行動をお願いしています。中部山岳国立公園へお出かけの際には、各自治体や訪問先が発信している情報を事前にご確認いただき、3つの密の回避や手指の消毒など、感染防止対策にご協力ください。みなさまのご理解ご協力をお願いいたします。

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