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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

干潟環境のモニタリングを実施しています。

2012年10月18日
名古屋
 名古屋自然保護官事務所では、今年度から目の前に広がる藤前干潟の水環境とそこに住む底生生物(ベントス)の季節的な変動を把握するために、稲永公園前に広がるヨシ原周辺に調査地点を複数設けて簡易モニタリングを実施しています。



【調査対象地】

 調査は、毎月1回大潮付近に実施しており、水域の水環境を把握するために、水質は水温、塩分、溶存酸素量、電気導電率、pH、濁度を、底質の因子として泥温度、酸化還元電位(ORP)、土壌硬度を測定・記録しています。ベントスも方形枠(コドラート)や篩を用いて定量的に調査しています。
 
 これまでの水質調査結果から、潮汐変動や大水の影響により、塩分や濁りの度合いが著しく変化することが分かり、河口域特有の変化が見られました。また、大都市近郊を流れる川ということもありペットボトルやプラスチック片などの漂着ゴミが多く見られ、水環境はきれいであるとは言えませんでした。




【調査地付近の漂着ゴミ】

 底質調査の結果から、ヨシ原内部の地点ほど底質中に存在する酸素量は少なく、泥色が黒く変色しており、強い硫化物臭が漂う箇所も確認されました。この場所の底質を掘り返してよく観察すると、落葉したヨシ片などの有機物が多く堆積しており、泥中で腐敗していました。このような嫌気的で酸素が少ない状態の底質環境では、生物に有害な硫化物が産生するので、ベントスの生息が困難となっているようでした。当水域は河川本流からやや奥まった所に位置しているので水流が緩やかで停滞し、底質がかき混ぜられにくく、底質の内部に酸素が十分に行き届いていないことが示唆されました。



【ヨシ原内部の底質の様子】

 これまでの調査で出現した主なベントスは、ソトオリガイやヤマトシジミなどの軟体動物が7種、チゴガニやヤマトオサガニなどの節足動物が7種、その他ユスリカの幼虫が確認されています。ゴカイなどの環形動物は種同定が困難な為、まとめてゴカイ類としてカウントしており、これらを含めると総出現種数は16種となりました。



【これまでの調査で確認されたベントス一覧】

 調査を続けていると、軟泥質干潟にはヤマトオサガニやウミナナフシの仲間が多く、地盤高が高くてやや乾燥した場所にはチゴガニやカワザンショウガイが多く出現する傾向が見られ、生息環境によって分布するベントス種が異なることが分かりました。二枚貝のソトオリガイや微小巻貝のカワザンショウガイ、ゴカイなどの多毛類はどの地点でも頻繁に見つかるので水域内で広く分布していると考えられます。ソトオリガイは準絶滅危惧(愛知県)に指定されている稀少種ですが、ここではまとまった個体群が見られます。



【カワザンショウガイ(写真左)とソトオリガイ(写真右)】



【泥の中から採取した生き物たち】

 ベントスの出現個体数は6月に最も多く、夏季にやや減少、10月には再び増加するなど季節変動を示しました。8月の調査では種組成が単調化し、出現した全ベントス個体数の約51%をゴカイ類が占める結果となりました。外気温の上昇に伴う泥温度の高温化および底質中の酸素不足で、ベントスにとっては厳しい環境条件であったことが考えられました。

 調査水域でこれまで見られた水環境とベントスの変動は、一般的な河口域で見られる特性と近似していました。通常時は穏やかな調査水域ですが、台風や大雨の直後は河川が増水して干潟の地形や粒度が変化するほどの変化が見られました。

 調査水域のパッチ状に分布したヨシ原は春から夏にかけて徐々に勢力を強めて8月に最盛期を迎え、10月にはやや衰退したように感じられました。
 ここに残された僅かなこのヨシ原は年々規模を縮小していると言われており、さらに土砂と漂着ゴミの堆積による陸地化が進行しているため、今後どのように推移するのか生物的、物理化学的な観点から見守る必要があります。ヨシ原の変遷については過去の「記事参照」





【ヨシ原の季節変化】



【陸地化が進行するヨシ原】

 藤前干潟におけるベントスに関する調査記録は少なく、近年では平成22年度に実施された「ラムサール条約湿地藤前干潟底生生物調査等業務」のみで、それ以前では平成14年に実施された「保全活用推進調査」まで遡ります。これらのデータは年間を通じて把握したものではありません。年間の調査頻度を増やすことで干潟環境やそこに住む生物のわずかな変化でも察知できるようになり、藤前干潟の現状把握に向けた基礎資料を構築することができると思います。

 稲永ビジターセンターには、藤前干潟のベントス等に関する展示が少ないので、今後も干潟のモニタリングを続けてデータを蓄積し、この調査で得られた結果をとりまとめて展示したいです。ベントスはシギやチドリなどの水鳥とは違って小さくて地味ですが、彼らが干潟に生息することで鳥類の餌になり、環境浄化等にも貢献していることが展示を通して実感してもらえるかと思います。

 秋も深まり、冬が近づいてまいりましたが、藤前干潟にはまだまだ生き物がたくさん見られます。そんな藤前干潟では今月末に「潮だまり観察会」が実施されます。どんな生き物に出会えるのか楽しみです。是非、観察会に参加しておもしろい生き物を探してみて下さい!

日時:10月28日(日)
   10:00~12:00
集合:藤前活動センター
定員:20名(要事前申し込み)
対象:一般(小3未満は保護者同伴)
費用:大人200円、小学生100円、幼児無料
内容:潮だまりにいる生きものをみんなで観察してみよう!
   秋の潮だまりにはどんな生きものがいるのかな?

お申し込み先:藤前活動センター TEL:052-309-7260
開館時間:9:00~16:30
休館日:毎週月曜日、第3水曜日