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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

冬の始まり

2024年12月12日
伊勢志摩国立公園 三好 明
みなさん、こんにちは。
伊勢志摩国立公園管理事務所アクティブ・レンジャーの三好です。
12月も中旬となり、令和6年もまもなく終わろうとしています。この一年を振り返りますと、大地震や空梅雨後の夏の猛暑、10月の長雨等々、自然との関わりが強かった年だと感じました。ただ、これは今年だけの話ではなく、ここ毎年多くの自然災害や異常気象が発生していることからも、将来の不安を感じずにはいられません。
12月も前半は秋のような暖かな日が続きましたが、最近になってようやく冬らしい寒さが訪れるようになりました。朝晩の冷え込みは冬そのものです。
みなさん、体調管理はできていますか。
今回は、志摩市、南伊勢町で撮影した動植物と風景を紹介したいと思います。
季節は11月下旬~12月上旬です。本当に動植物を撮影するのが大変な季節になりました!

冬の始まり
 

【寸景】
秋の紅葉モミジもすっかり枯れモミジになってしまいました。12月の上旬が暖かかったため、青い葉も残っていますが、これはこれできれいな寸景ですね。冬の始まりです。


【横山展望台寸景】
志摩市にある横山展望台から見たリアス海岸と雲です。青い空にぽっかり浮かぶ白い雲が、初冬の澄んだ空気を感じさせてくれます。


【南伊勢町寸景】
南伊勢町では、この時期養殖アオサノリの収穫時期を迎えます。きれいな空気にきれいな山、きれいな海が美味しいアオサノリを育ててくれます。凜とした空気感と光がいい感じです。


【安乗崎寸景】
国立公園内にある安乗崎へ行ってきました。強風で荒れる冬の太平洋を見ていると、海の厳しさを感じさせてくれます。

冬の動植物たち


【マユタテアカネ】
湿地の浅橋には一匹のマユタテアカネが休んでいました。暖かな日差しを浴びて、気持ちよさそうです。トンボ科アカネ属に属するアカトンボで、顔面に眉毛のような模様があることから「眉立て茜」といいます。繁殖期のピークの9月頃がもっとも色が美しく、活発に活動するそうです。この子も最後の力を振り絞って生きているのだと思います。東京区部では絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されています。


【イセリアカイガラムシ(雌)】
イセリアカイガラムシは、大きさ4~6㎜ほどのカメムシ目ワタフキカイガラムシ科の昆虫で、この時期白いモコモコが木にいっぱい付いているのがよく見られます。見た目のほとんどがロウ状の物質で覆われ、実はこのロウ物質が卵のうで、この中に卵がたくさん入っています。雌と雄と交尾することなく産卵が可能で、滅多に出現しないようですが雄の成虫には翅があるそうです。この子もよく見ると手が見えています。


【クモ】
スポットライトを浴びるように、きれいなクモの巣が光り輝いています。風が吹くたびにブルブル震えるクモの巣は、乱反射するといっそう造形的で華麗です。小さな生き物の力を感じます。


【ヒメアカネ】
アカネ属の中で一番小さなアカトンボがヒメアカネです。体長は2.8~3.8㎝で、国内のアカトンボでは最小の種です。生息環境の変化に敏感で、多少の伐採だけでも姿を消すことがあるそうです。ただし、寒さには比較的強く、12月下旬頃まで見られます。宮城県では絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)に指定されています。


【アケボノソウ】
山深くの山水が流れているところへ入っていくと、一輪のアケボノソウを見つけました。リンドウ科センブリ属に分類される一年草または二年草で、8月~9月に花期を迎えます。名前の由来は、紫がかった斑点が散りばめられた白い花が、明るくなり始める夜明けの空に見えることから、アケボノソウ(曙草)と名付けられました。この時期まで花が残っているのは珍しく、本来はひとつの茎や枝の先にいくつも花を咲かせます。埼玉県では絶滅危惧Ⅰ類に指定されています。


【ツルソバ】
ツルソバは、タデ科イヌタデ属に分類されるつる性の多年草で、本州から九州の海岸近くに自生します。長さが2mほどになり花期は7月から11月で、その後に果実を付けます。ソバに似ている茎がつる状に伸びることからその名が付いたそうで、かなり旺盛に繁殖しますが在来種です。ただし、神奈川県では、地球温暖化に乗って北へ北へと分布域を広げているようで、国内外来種的な扱いになっています。


【ミヤギノハギ】
ミヤギノハギは、高さ2mほどになるマメ科の多年草で、宮城県に多く生息していることから、その名が付けられたとする説があります。宮城県の県花となっており、夏から秋に紅紫色の蝶の形をした花を付けます。夏萩の別名もあるとおり、この時期に咲いているのは最後だと思います。本来日本には自生せず、1650年代に園芸品種として栽培されたようです。


【ノミノフスマ】
小さなノミノフスマがまるでダンスを踊るように華麗に咲いていました。ナデシコ科ハコベ属の一年草(越年草)で、北海道から沖縄の田畑の縁に普通に生えます。漢字では「蚤の衾」と書き、衾(ふすま)とは布団のことで、小さな葉をノミの布団に例えたものだそうです。


【カタバミ】
山辺を歩いていると、カタバミの黄色い花がポツンと静かに咲いていました。カタバミ科カタバミ属の多年草で、本州から九州にかけて分布し、畑や庭、道端などで普通に見られます。春から秋にかけて黄色い花を咲かせ、日なたでは花を出すが、日陰に咲いてしまうと花がしぼんでしまうそうです。


【ハナイソギク】
海辺にはハナイソギクが華麗に咲いていました。海岸の岸に生える多年草で、イソギクとイエギク(園芸種)の自然交配種と言われています。イソギクは、千葉県から静岡県までの分布ですが、それ以外の地域でも広く栽培されていることから、各地でこの雑種が見られるようになったそうです。葉形もイソギクとイエギクの中間型になります。


【ボタン】
寒さの中で咲き誇っているのはボタンの花です。ボタン科ボタン属の落葉低木で、栽培は2000年の歴史があり、約400種の品種があると言われています。日本には8世紀頃、薬用として渡来したそうです。花言葉は「富貴」「壮麗」「恥じらい」「誠実」とのことです。


【ガマズミの実】
山地には、ガマズミが真っ赤に実っていました。ガマズミは、ガマズミ科ガマズミ属に属する落葉低木で、春に白い花を咲かせ、秋にその実が赤く熟します。北海道(南部)、本州、四国、九州の山地に自生する日本固有種で、高さ5mほどになります。今では希少な植物です。


【センブリ】
山間には、小さなセンブリの花が数株だけ咲いていました。リンドウ科センブリ属に分類される二年草です。その名の由来は、全草が非常に苦く、煎じて「千回振出してもまだ苦い」ということから、「千度振り出し」が略されたとされています。別名「イシャダオシ(医者倒し)」とも呼ばれているそうです。苦そ~!でも一度飲んでみたい~!埼玉県では絶滅危惧Ⅱ塁(VU)に指定されています。

終わりに

いかがでしたか。
今回は初冬の風景と、そこで出会った動植物たちを紹介しました。
秋から冬への移り変わりが今ひとつはっきりしない年でしたが、生き物たちを見ていると季節は確実に進んでいます。特にマユタテアカネやヒメアカネとの出会いは、季節を生き抜いてきた強さとともに、終焉を迎えるものの一抹の寂しさを感じさせてくれました。それは冬の厳しさや寂しさと共通するものです。
次回もがんばります!

自然を大切に!


【イエバエ】