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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

藤前干潟で行っている底生生物の定点モニタリング調査のこと

2022年03月02日
国指定藤前干潟鳥獣保護区 西部理恵

皆さま、藤前干潟からこんにちは。

アクティブ・レンジャーの西部です。

<2022年2月24日の藤前干潟:一見、穏やかそうですが、実は風がビュービューです!>

今年は寒い日が続きますが、ようやく少しずつ暖かくなっていくのかな、と感じます。

それでも、まだまだ寒いですので、皆さま、お出かけの際はお気をつけくださいね。

さて、先日、岸ARが藤前干潟鳥獣保護区のFACEBOOK(https://m.facebook.com/fujimaehigata2002?_rdr)で、名古屋ROが実施している干潟の定点モニタリング調査についてアップしてくれました。

このAR日記でも何度かご紹介していますが、今回は、どんなデータが得られているのかについても改めてご紹介しようと思います!

藤前干潟鳥獣保護区内の調査地

<名古屋ROが調査を行っている干潟>

名古屋ROが実施している定点モニタリング調査は、干潟の底泥に生息する生きものを毎月同じ方法で観測し、記録するものです。

アクティブレンジャーは、生きもののスペシャリスト、というわけではありませんので、調査は泥中の酸化還元電位(※)と30cm四方の生きものの個数を記録しているだけの簡易的なモニタリングです。

それでも、ずっと続けているので、干潟の変化などが見えるようになってきました。簡易的であっても、人の感覚ではなくデータとして示すことができるので、それを元にもっと詳しい環境調査を実施してもらえるように働きかけたり、大学の先生などに卒業研究をやりませんか?といったお声かけをしたり、といったことに活用しています。

(※)酸化還元電位とは、測定するものが酸化や還元反応する時の電子のやりとりで発生する電位のこと。酸化は酸素と結びつく反応、還元は酸素と離れる反応で、底泥の酸化還元電位は、簡単に言うと泥の中の酸素の有る無しを測定しています。

還元状態(酸素がなくなった状態)では、硫化物が発生し硫黄臭がしてくるのですが、この状態が進むと泥はヘドロ化して、あまり生きものにとって好ましくない状況となります。

ただ、干潟の場合は、こうした還元層でも生きものが割といるので、還元状態の土壌にも強い生きものが多いのかもしれません。

干潟の定点モニタリング調査

<調査記録をとっているところ>

採取した干潟の泥をふるいにかける

<採取した泥をふるっているところ>

調査の具体的な方法については、facebookの記事を見ていただくとして、

この調査から、どんなことが分かって来たのか、少しご紹介しようと思います。

下図は、2014年から2020年までの個体数の推移です(調査は2012年から開始していますがまとめが出来ていません)。

単位面積には換算していないこと、3地点の合計個体数であること、にご注意ください。

干潟の定点モニタリング調査 結果 個体数の経年変化

これを見ると、

変動はあるものの、季節によって、比較的、定期的に変化していることがわかります。

藤前干潟では、泥の中の生きものは、春と冬に多く、夏には減ってしまうようです。泥の中の生きものたちの季節変化、サイクルが見えてきそうですね。

では、種類はどうでしょうか。

定点モニタリング調査 結果 種数の経年変化

個体数は夏に減少しましたが、生きものの種類はどちらかというと春から冬にかけて少しずつ減少傾向にあるようです。また、ここ数年は、通年をとおして種類数が少し増えているようですね。

ここで皆さんにお伝えしておきたいのは、この調査では大きなカニやトビハゼといった移動性の生きものについては、捉えられていない、ということです。

調査は、枠で囲いをして、その泥をスコップで採取するので、トビハゼなどは我々が到着するときにはもう姿を消しています。大きなカニもそうですね。

そして、表層の5㎝だけをとるので、もっと奥に巣穴があるカニや貝も捉えることができません。

<ヨシを再利用した調査用の30cm×30cm枠(コドラートと言います)>

そうしたことを踏まえると、この調査では、"移動する力が弱く、泥の表面付近にいる生きもの"を観測していると言えます。

そんな限定された条件でも、少ない月で6種類くらい、多い月には10種類以上の生きものを確認することが出来ています。

泥の中には本当に多くの生きものがいるんだなぁ、ということに驚きます。

それと同時に、季節の変化だけでなく、年によって、生きものたちの状況というものが大きく変化する、ということも分かります。

個体数の経年変化(作図版)

赤い丸に注目してみてください。

2020年は年間をとおして毎月の個体数はそれほど多くないのですが、多いときと少ないときの差があまりありません。

しかし、2015年は、個体数の多い月と少ない月の差がとても大きいですね。

データを科学的に見るためには、これらのデータに統計的な処理を施してから多いとか少ないとか言う必要があるので、一概にこれを見ただけでは結論を出せませんが、こうした変化から、この年に何か変化が起こるようなことがあったのか?などと、考えるキッカケが見えてきます。

こうした調査は、継続的に実施することで干潟の変化を知ることが出来るとても大事なことだなと感じています。

今回ご紹介した名古屋ROが実施している調査は、市民の方でも挑戦できるような簡単な調査です。

こうした簡単な調査でも、継続して実施することで、干潟の環境変化や生きものたちの営みが垣間見えて、面白いですよ。

もし、地元の干潟でやってみたいな、と思われる方は、ぜひ参考にしてみてください。

とはいえ、、、

寒風吹きすさぶ中での調査の様子!

<2022年2月18日 寒風吹きすさぶ中、調査を実施、、、こんな事もあります!>

もっと詳しく知りたい方には、下記をご紹介しておきたいと思います。

●干潟の調査

環境省生物多様性センター モニタリングサイト1000(干潟)

https://www.biodic.go.jp/moni1000/

国際湿地保全連合 干潟生物の市民調査

https://japan.wetlands.org/ja/%E5%87%BA%E7%89%88%E7%89%A9/%E5%B9%B2%E6%BD%9F%E7%94%9F%E7%89%A9%E3%81%AE%E5%B8%82%E6%B0%91%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E9%81%8B%E5%96%B6/