アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]
歩くアルペンルートを歩こう!~立山の魅力~その1 立山駅から美女平
2022年01月05日こんにちは。中部山岳国立公園立山管理官事務所です。
皆さんは、「歩くアルペンルート」って知っていますか?立山周辺の登山や観光をする際に多くの人が利用する立山黒部アルペンルートですが、その道路沿いには通称「歩くアルペンルート」と呼ばれる歩道があり、かつての立山信仰で登拝していた道と重なる箇所も多く、文化歴史と自然を味わいながら歩くことができます。コースは立山駅(標高475m)から雄山(3,003m)までと、雄山(立山)登山の途中にある一ノ越(2,700m)から黒部ダム(1,450m)までの道となっています。
今回、立山のアクティブ・レンジャーである平松と一ノ枝がグリーンシーズン中に巡視で通った歩くアルペンルートの魅力を区間にわけて紹介します。第1回目は立山駅から美女平・ブナ坂(1,120m)までの紹介です。
その前に、まず立山信仰に関連して、立山の開山についてお話しします。
立山開山縁起によると、佐伯有頼(さえきありより)という越中国の殿様の息子が立山を開いたと言われています。
時は文武天皇(西暦701年頃)の時代、有頼少年はお父さんが大事にしていた白鷹を勝手に連れ出し、山へ出かけたのですが、白鷹が逃げてしまいました。有頼は必死で白鷹を追いかけます。白鷹を追っていると熊に遭遇!!有頼が矢を射ると見事熊の胸に命中します。しかし、その間に白鷹を見失ってしまったため、逃げていく熊を追っかけて、血の跡を目印に山の奥へと進んでいきました。血の跡は洞窟へと続き、中に入ると有頼の前に現れたのは、なんと阿弥陀如来でした。胸に矢が刺さっており、さっきの熊は阿弥陀如来の化身だったのです。そして、探していた白鷹は不動明王でした。
「世の全ての人が立山にお参りできるように、努力せよ」との阿弥陀如来のお告げを受け、佐伯有頼は出家し僧名を慈興(じこう)として立山開山に努めていきました。
立山開山にはこんな話があったのですね。さてさて、ルートは立山駅のある千寿ヶ原からスタートです。
千寿ヶ原ロータリー前には熊王の水があります。もともとこの水源は立山駅~美女平の旧立山登山道にあり(現在道はありません)、登拝者はここで安全祈願を行い、水分補給をして登拝していったそうです。
熊王の水を後にして、いよいよ歩くアルペンルートに入ります。今回のルートの大部分は材木坂と呼ばれる坂道で、その横を立山ケーブルカーが通っています。道のりは約1.5km、標高は立山駅が475m、美女平駅が977mあるので、約500mの標高差を一気に登ることになります。入口は立山駅の裏手で、少し分かりにくいかもしれません。ミズナラ、トチノキ、ケヤキ、イタヤカエデ、オニグルミなどが茂る林の中を歩いていきます。林内にはユキツバキ、リョウブ、オオバクロモジなどの低木の他、イワウチワ、キバナイカリソウ、ニリンソウなどの草本に混じって、ウワバミソウ、ミヤマイラクサ、ウド、ワラビなどの山菜も見られます。
<ウワバミソウ 「カタハ」とか「ミズナ」などとも呼ばれます。>
上り坂をしばらく進むと六角形の石でできた丸太のような材木石が見られます。
材木石は、立山火山が噴火した際に溶岩が冷却してできた柱状節理のことで、六角形の柱状をしているのが特徴です。立山伝説の中には材木石に関して次のような話もあります。
明治5年(1872)まで立山は女人禁制の山でした。今では考えられませんが、女性は月経や出産時の出血によって大地や水の神を汚すと考えられていました。そんな立山に若狭国小浜(福井県)の尼僧(にそう)とお供の若い女性と女の子が立山へ登りにいった際に材木をまたいで進んでいたところ神の怒りに触れ、一夜にして材木が石に変わってしまったそうです。
また、さらに先へと進もうと立山登拝をしていた若い女性が神の怒りに触れて杉に変えられてしまったことから、その場所にあったスギを美女杉と呼ばれるようになったとのことです。
美女平のバス停前に、石仏があるのをご存じでしょうか?これは「西国三十三箇所 観音石仏」の一つです。
立山信仰が盛んだった江戸時代、西国三十三箇所巡礼になぞらえて33体の分霊観音石仏が岩峅寺から室堂にかけて設置されました。歩く際の道しるべの役割を担っていました。現在は33体のうち25体が現存しています。美女平駅前にあるのは、第十七番札所の「十一面観音立像」です。アルペンルート(車道)のブナ坂付近には第十九番札所の「千手観音立像」が現存しています。
美女平にはここから標高1,110mにあるブナ坂までの間に遊歩道が整備されています。ここでは、春から初夏にかけては、ブナの新緑と野鳥たちのさえずり、秋には紅葉が私たちの目や耳を楽しませてくれます。また、立山杉の大木もあって、その中でも大きなものは幹の周りが10m近くもあって、「火炎杉」や「不老樹」などの愛称がついています。
立山から美女平の間までは坂道もきつく、普通ならケーブルカーを使うので、このルートはあまり歩かないかもしれません。でも、いつも歩かない道だからこそ、かえって新しい発見もあるのではないでしょうか。ルートの中では標高の低い場所なので真夏の暑い時期よりも、春の新緑や秋の紅葉の時期に訪れるのがおすすめです。
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