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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

<2>後立山連峰縦走線歩道(鹿島槍ヶ岳から五竜岳)

2021年10月15日
後立山 福澤春彦

こんにちは中部山岳国立公園管理事務所の福澤です。

先日の船窪岳に続き、八峰キレットを通過する鹿島槍ヶ岳から五竜岳の縦走路を巡視してきましたので報告します。

9月29日、後立山担当管理官と登山口の扇沢出合より入山し爺ヶ岳を越え冷池山荘に入りました。扇沢出合から種池山荘まで、爺ヶ岳南尾根の東斜面に付けられた柏原新道を登ります。この登山道は山の斜面を利用して造られており、緩やかに高度を上げながら稜線まで達することできます。柏原新道は種池山荘、冷池山荘の(故)柏原正泰さんによって拓かれた爺ヶ岳や鹿島槍ヶ岳へのメインルートです。

<柏原新道登山口>

支尾根から取り付きやや急な登りですが、斜面に入ると歩きやすい勾配の登山道が続き、種池山荘に到着しました。

<歩きやすい登山道>

種池山荘では柏原さんから登山道整備や山小屋の近況などお話を伺うことができました。

小屋で企画した種池山荘オリジナルのピザがSNSや口コミで人気となり売り切れになるほどだそうです。

<縦走路の稜線上にある種池山荘>

https://kasimayari.jp/

<名物の種池ピザ>

種池山荘から後立山縦走線です。東に向かう縦走路は爺ヶ岳からは北へ、日本海に向かって縦走路は続きます。

登山道は整備され、岩稜帯の道ですが歩きやすいです。

ただし、爺ヶ岳南峰など広い尾根では視界が悪くなると登山道を見失う危険が潜んでいます。特に森林限界を超えた岩稜帯の広い尾根は登山道を外れないようマーキングや地図を頼りに進むことが必要となる場面があります。

<爺ヶ岳への縦走路>

爺ヶ岳南峰、中峰、北峰と越え冷乗越から軽く登り返すと冷池山荘に到着です。

冷池山荘ではコロナ禍でオリジナルな対応をしていました。

<冷池山荘>

https://kasimayari.jp/

それは宿泊客で外履き(サンダル)内履き(スリッパ)が共用されないよう、個々に下駄箱がセットされていました。多くの山小屋でコロナ感染症に対策できることを形にして実践されています。

<各人に割り当てられた下駄箱>

9月30日は快晴、真っ赤に染まる朝焼けと大パノラマを見ることができました。今日は縦走路の核心部である鹿島槍ヶ岳から五竜岳の岩稜帯を行きます。

<朝焼けの鹿島槍ヶ岳>

素晴らしい天気の中、布引岳(2683m)を越え鹿島槍ヶ岳南峰(2889m)に到着しました。縦走路の東は奥深い黒部の谷、そして谷を挟んで立山連峰から剱岳が常に見えています。振り返れば爺ヶ岳、遠景には穂高連峰から槍ヶ岳まで見渡せます。

<黒部の谷を挟んで聳える立山連峰>

<爺ヶ岳からの縦走路 遠景は穂高・槍方面>

ここまでの登山道は岩も安定しており、はっきりと"登山道"と認識することができ危険箇所はありませんでした。

鹿島槍ヶ岳南峰頂上で休憩を兼ね360度の景色を堪能し、ヘルメットと簡易的な自己確保ができるようスリングとカラビナを装着、いよいよ難路に入っていきます。

先ずは南峰を降るのですが、体感として登山道が一変したのが分かります。それは急斜度、岩の不安定、登山道脇の切れ落ちなど、ここまでの登山道から一変、危険だと感覚的に察知する必要があります。先日も南峰直下で滑落事故が発生したとのことで、冷池山荘のスタッフが現場確認に登られていました。

<鹿島槍ヶ岳南峰の降り>

鹿島槍ヶ岳北峰を通過し、いくつか岩場を越して縦走路最低鞍部に向かっていきます。写真のように急斜面、かつ浮き石もありますので落石を誘発しないよう注意深く丁寧に足を運ぶ必要があります。

<キレットに向かう岩稜帯の降り>

八峰キレットは高度感のある登り降りですが、鎖や梯子が付いていますので安全に通過することができました。このような場所では登山者のすれ違いが大きな事故に繋がりかねないので、お互いの状況を口頭で伝え、「進む」と「待つ」をはっきり確認することが重要です。不用意に行動すれば、すれ違うザックがお互い触れただけで足を踏み外すなど思いがけない危険が潜んでいるからです。

<八峰キレット>

<八峰キレットを越えキレット小屋を見下ろす>

キレット小屋は稜線上からのぞき込むと凄い場所に建っていることが分かります。

カクネ里氷河を見下ろす鞍部に張り付くように建っています。

鹿島槍ヶ岳と五竜岳を縦走する場合、ほぼ中間地点に位置しており登山者の安全を見守ってくれているような気がします。

小屋の営業は縦走両端の山小屋より早いため、事前の確認が必要です。

今年は10月2日で営業が終了しました。

キレット小屋より五竜岳に向けて大小いくつものアップダウンを繰り返しながら全体的には標高を上げていきます。口の沢のコルと呼ばれる平坦地で休憩した後、いよいよ五竜岳への登りです。この稜線は八峰キレット同様の難所と言われる稜線で、特にG5、G4(Gはグラードの略でドイツ語の岩稜の意味)と名付けられた岩稜帯はクライミングとクライムダウンが必要です。岩にはマーキングがありますので慎重に手足を運べば安全に通過できます。但し、岩場のマーキングは降りの際に見えにくいもので注意が必要です。

<岩場をいくつも登り降りしながら高度を上げていきます>

<G5とG4を越えて五竜岳に続く縦走路>

G4を登り切れば、あとはガラガラとした岩が堆積する急斜面を詰め五竜岳頂上(2814m)に無事到着しました。鹿島槍ヶ岳から五竜岳頂上までは、体力的にも技術的にも長野県が発表している「山のグレーティング」で上級者向け登山道であることが分かります。https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/sangyo/kanko/gure-dexingu.html

頂上では雲で眺望は得られませんでしたが、新しくなった頂上標柱を確認できました。

頂上(G3)よりG2、G1、G0と岩稜の尾根を降って五竜山荘に到着です。

この頂上直下の岩稜帯と岩が詰まった狭い谷(ガリー)が遠目からは菱形に見え、有名な五竜の雪形「武田菱」となって現れます。

<五竜山荘>

https://hakuba-sanso.co.jp/yamagoya/goryusanso.html

五竜山荘は白岳と五竜岳の稜線鞍部に建つ山小屋で、遠見尾根や唐松岳方面からの登山者にとって重要な拠点です。

食堂でもコロナ感染症対策も徹底されており安心して登山者が宿泊できる山小屋でした。

最終日は、遠見尾根を降りました。

白岳から白馬五竜スキー場に続く長大な遠見尾根は、北アルプスの撮影ポイントとしても有名で沢山の登山客が往来するところです。

白岳直下に鎖場が数カ所あり、特に降りでは注意する必要があります。

<白岳下の鎖場は4箇所>

以降は尾根沿の登山道で、小さなアップダウンを繰り返す歩きやすい登山道です。

<遠見尾根の木製階段>

遠見尾根は、木製の階段や木道があり歩きやすいよう工夫のある施工がされています。

中には破損した箇所も見られましたが、安全に降ることができました。

最後は白馬五竜スキー場のゲレンデトップに出て今回の登山道巡視は無事終了しました。

<遠見尾根の木道>

<地蔵の頭ケルン>

今回の登山道巡視で、登山道は山小屋によって安全に維持管理できていることが確認できました。鹿島槍ヶ岳から五竜岳の縦走路では、鎖や梯子、また岩場のマーキングなど安全のための施工がされていました。但し、この長い距離(約4.5km)の岩稜帯を歩き通す登山者自身の歩行技術が前提となることは言うまでもありません。

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