アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]
<1>後立山連峰縦走線歩道(烏帽子から船窪)
2021年10月15日こんにちは中部山岳国立公園管理事務所の福澤です。
いよいよ秋の気配が感じられる今日この頃ですが、一足早い秋を迎えている後立山の登山道巡視を2箇所、2回に分けて行ってきました。
1箇所目は、急登と急降下を繰り返すうえ山の崩壊が激しいことから難路とされている烏帽岳から船窪岳の縦走路、2箇所目は、北アルプス岩稜帯縦走の代名詞の一つ八峰キレットを通過する鹿島槍ヶ岳から五竜岳の縦走です。
今日は烏帽岳から船窪岳の縦走路を報告します。
9月16日、登山口の七倉より入山し烏帽子小屋で後立山担当の管理官と合流しました。管理官は新穂高温泉より入山、三俣山荘に一泊したあと烏帽子小屋で合流です。
タクシーを利用される方が多いですが、歩いて源五郎沢トンネル(隧道)を抜けると視界に飛び込んでくる日本第2位の高さを誇る高瀬ダムは圧巻です。
大きな岩を積み重ねたロックフィル式ダムの法面をジグザクに車道を登り詰めるとコバルトブルーの高瀬湖が目の前に広がります。
<日本第2位の高さ ロックフィル式の高瀬ダム>
真っ暗な不動トンネルを抜けると目がくらむような白い情景が飛び込んできます。
真砂土です。まさに今回の巡視ルートの稜線が正面に見えますが、濁沢と不動沢から崩壊した花崗岩が風化した大量の真砂土が堆積しているのです。
<遠景は今回の縦走路 手前に真砂土が堆積>
電力発電への影響を抑えるため真砂土を取り除く大型ダンプカーがローテーションで何度も何度も運び出していました。
砂漠のような一帯を抜け濁沢を渡ると登山口です。ブナ立尾根は日本三大急登の一つですが、よく整備されており安心して登ることができました。
<ブナ立尾根登山口 標高毎に12の看板が示してあります>
烏帽子小屋の上條さんが中心となり登山道整備や縦走路の貴重なお話を伺うことができました。http://home.384.jp/eboshi2628vera/
<烏帽子小屋と烏帽子岳方面>
二日目は、管理官と二人で烏帽子から船窪の縦走路を巡視です。
烏帽子岳を左手に見ながら縦走路に立つと南沢岳から不動岳の間が崩壊し山の地肌が剥き出しになっています。崩壊地帯の稜線鞍部が南沢乗越で、ロート状に落ち込む濁沢へ崩壊した土砂が集まっています。
<南沢乗越の崩壊地帯>
近づいてみると、やはり年々確実に崩壊が進んできているようです。
登山道は稜線中心に付いていますが、稜線が浸食されたため今は安全を期して所々富山県側の樹林帯を通しています。しかし崩壊場所の際を通る登山道も存在しており、細心の注意が必要です。具体的には、岩稜帯の登山とは大きく違い、砂状になった花崗岩の斜面を登り降りするには登山靴の特性の一つであるフリクションを最大限活用し足裏全体が地面に接着すること、加えて小股で歩くことが肝要です。
<崩壊地を回避するため樹林帯を通る>
<崩壊地の際を通る登山道>
不動岳を通過し樹林帯の登降で安心したのもつかの間、今度は船窪岳までさらに難路となります。濁沢同様ですが上部の崩壊が全体的にロート状になった不動沢や支沢に向かって落ち込んでいます。
<不動岳から船窪岳方面の崩壊>
いくつかピークを登り降りして、最高点ピーク(2459m)からが一番の難所です。先ずはピークからの降りで補助ロープを頼りに30m強の急斜面を下降するところ。岩場だとクライムダウンとしてステップやホールドを繋ぎながら降りるのですが、砂化した花崗岩の崩壊した急斜面です。補助ロープがフィックスされていましたが、もしなければ自前のロープが必須となるルートです。
<補助ロープを頼りにトラバースする核心部>
<補助ロープを頼りに約30m下降する核心部>
さらに登りでは、崩壊地がリッジ状になっており整備された鉄パイプを頼りに対岸へ渡り、さらに尾根の取り付きに梯子を登り一安心する場所です。
<リッジ状の崩壊地は鉄パイプが組まれている>
<難所を越えて船窪岳となる>
船窪小屋による整備のおかげで登山道として通過できるようになっていましたが一歩一歩注意が必要な箇所でした。船窪岳を通過し七倉岳に向けて樹林帯の中を登り返すと船窪小屋です。登山者の安全を祈願する五色の旗(タルチョ)が迎えてくれます。
船窪小屋はランプの宿として有名です。長らく松澤宗洋さん夫妻が小屋を守ってこられましたが5年前に引退され、宗洋さんがこの8月25日他界されました、心よりお悔やみ申し上げます。
3日目は七倉への下山です。この七倉尾根はブナ立尾根に劣らず急勾配です。
特に樹林帯の急勾配箇所は、木々が登山道に露出しています。
<連続する樹木状の登山道>
晴れて木々が乾燥していれば急勾配の登山道で足がかり手がかりとして有効な木々も雨の日や濡れている場合は大変滑りやすく、最大限の注意が必要です。
梯子も連続するくらい急勾配の七倉尾根は、一瞬のスリップが大事故に繋がりかねません。特に降りの際は、注意深く歩きましょう。
<無事に七倉登山口に到着>
今回の縦走路は、全体的にアップダウンが激しく、登山道の大半で注意深く歩くことが必須となるため、体力的にも精神的にもハードな登山となります。
<アップダウンが連続する断崖を行く>
崩壊箇所は補助ロープや鉄パイプ、また梯子などが設置されており、登山道として通過することが可能であると確認できました。
しかし崩壊は今後も進み、樹木の根が崩壊浸食で辛うじて稜線に張り付いている箇所も散見されました。
この登山道は、北アルプス北部と裏銀座ルートを繋ぐ貴重な縦走路であることから、登山の重要拠点である烏帽子小屋と船窪小屋の情報に注視して下さい。
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