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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

いつもと違う山歩きの楽しみ方(景色を見るのではなく観察する)

2015年01月22日
後立山 アクティブレンジャー則武 敏史

こんにちは、中部山岳国立公園(≒ 北アルプス)後立山地区からです。

山での楽しみ方はいろいろあります。景色を眺めることもその一つだと思いますが、今回は景色を「眺める、全体的に見る」のではなく、「観察」してみます。

観察する場所があるのは白馬岳から雪倉岳に向かう途中です。この辺りは、中部山岳国立公園の特別保護地区で、国指定特別天然記念物「白馬連山高山植物帯」に指定されています。

今回観察する場所の地図

この場所の標高は約2,500mで、いわゆる高山帯と呼ばれるところにあります。主に見られる植物はハイマツですが、植物のほとんどない場所もあります。

さて、観察する景色は下の写真で、撮影地点から手前の小高い所までの区間の稜線(写真の赤い線)の左右です。稜線の左右の植生(植生のまとまり)に着目します。何を読み取れるでしょうか?

観察する景色の写真

<平成26年9月4日撮影。左奥が鉢ヶ岳、右奥が雪倉岳。>

まず、大きなところでは、稜線の左右で「植生が異なっている」ことに気付きましたか?

(正直に書くと、私は現地ではただこの写真を撮影しただけで、このことに全く気付いていませんでした。)

細かく見ると、次の3点くらいが読み取れます。

・稜線の左側は、ハイマツ群落(緑色のまとまり)が砂礫地(白いところ)にまだら状に分布している。

・稜線の平坦地から右側の斜面上部にかけては、密なハイマツ群落が分布している(緑色が帯状にある)。

・しかし、ハイマツ群落は斜面上部にあるだけで突然終わり、それより斜面下部は急に砂礫地になる(斜面上部の緑色と白色の境界がはっきりしている)。

稜線の左右で植生が違う

では、どうしてこのように植生が異なるのか、気になります。

岩田修二(1980)「白馬岳の砂礫斜面」(地学雑誌Vol.89No.6)に、この場所を含む写真が載っていました。そして、「6月に残雪におおわれている場所は,残雪砂礫斜面や草地になっていることがわかる。」と説明がありました。

岩田が1980年に発表した論文の図

・この写真は岩田が1980年6月に撮影したもの。岩田(1980)の電子ジャーナルhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/89/6/89_6_Plate1/_pdfに2015年1月21日にアクセスし引用。

・この写真の下半分、手前の小高いピークまでが私の撮影した写真で説明している箇所。

・この写真を見ると、稜線の左側の斜面には雪が全くない。

・稜線のすぐ右に黒く帯状に見えるのはハイマツ群落で、そのすぐ脇から斜面下部には雪が残っている。

・私の撮影した写真で稜線右側の砂礫地となっている場所と、この写真の残雪の場所を比べると、岩田の書いているように「6月に残雪におおわれている場所は,残雪砂礫斜面や草地になっていることがわかる。」



このように撮影した季節の異なる写真を比べることで、植生が異なる理由が、残雪によるものであることが分かりました。(まだ稜線の左側の植生の成立については解けていないので、今後の勉強が必要ですが)

景色を観察し、その景色ができた背景を考えることは、とても面白く感じました。

皆さんもこういう楽しみ方、いかがですか。