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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

都会と自然のはざまで

2011年10月21日
名古屋
 俳句の秋の季語に「初鴨」があるが、藤前干潟でもカルガモをはじめ、さまざまなカモが見られるようになった。
満潮時、カモがたゆたう姿は見ていて微笑ましい。秋が来たことを実感する瞬間でもある。

   
【稲永公園内にある名古屋自然保護官事務所周辺の木々も色づきはじめた】

   
【稲永公園でみつけたコテングタケモドキ。実は菌(キノコ)も秋の季語となっている】

 今からちょうど1年前の秋、愛知県名古屋市でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催された。その時、里山里海という言葉が新聞の見出しを飾った。
 里は、大自然に対して人が住むところをさし、都市に対して田舎という意味もある。つまり山や海、大自然と都市の中間に位置するが里山里海というわけだ。自然と人の交差点と言い換えられるかもしれない。
 わたしにとって一番身近な(個人的に思う)里山里海は、勤務地でもある藤前干潟だ。

   
【新東名高速道路と新名神高速道路をつなぐ伊勢湾岸道路】

 北に名古屋市と中京工業地帯を代表する工業都市四日市市を結ぶ国道23号線、南に新東名高速道路と新名神高速道路をつなぐ伊勢湾岸道路(名港西大橋)という新旧の交通の大動脈の間に位置する藤前干潟は、名古屋市唯一の里海だと思う。

   
【都会と自然のはざまにある藤前干潟】

 お昼休みにわたしのお気に入りに場所、庄内川沿い河口にある干潟に行くと、いつもカニやハゼといった底生生物が迎えてくれる。最初は人の気配に驚き干潟の巣穴や岩の合間に身を隠すのだが、息をひそめていると、そっと外を伺い、住み家からぞろぞろと這い出してくる。

   
【コンクリートの隙間は、絶好の隠れ家だ!クロベンケイガニ】

   
【カニに比べるとなかなか会うことができないトビハゼ】

 「ひっかかったな」と、さらに息をひそめていると、カニは足で泥をすくっては口に運び、ハゼは胸ビレを使って干潟をはい回り、何か感じるものがあったのかジャンプをして、驚かせてくれる。
 命を謳歌しているようにみえる底生生物だが、渡り鳥や大きな魚に食べられる危険をはらんでいる。命のリレーと言ってしまえばそれまでだが、一生懸命なだけに少し胸が痛む。
 愛知県名古屋市では、報道によるとCOP10以降、生物多様性が浸透しつつあるとのことだが、大自然の中だけでなく、都会と自然のはざまで命の限りに生きる小さな生き物がいることをこれからも伝えていきたいと思った。