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中部地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [中部地区]

藤前干潟もうひとつの物語Ⅰ「尾張前寿司を作ろう」 

2009年05月27日
名古屋
 はじめまして。名古屋自然保護官事務所の新人ARの玉津佐知子です。
わたしの勤務する名古屋自然保護官事務所は、ラムサール条約登録湿地である藤前干潟が目の前に拡がる伊勢湾の奥部にあります。
藤前干潟というと「渡り鳥の中継地」という人もいれば、ゴミ処分場として埋め立て計画が断念された経緯から「環境の代名詞」という人もいます。
 しかし採用が決まって思い出されたのは、かつての仕事で訪ねた寿司屋の大将の「伊勢湾は、江戸前寿司のネタの宝庫なんだけど、名古屋人はそれを知らないんだよね」という一言でした。
 なぜ伊勢湾が江戸前寿司の宝庫なのか・・・。ひょっとしたらそれは藤前干潟と関係があるのか?きょうは、そんな話をしたいと思います。


*藤前干潟と海上斜張橋の「名港トリトン」。やがて第二東名・名神高速道路とつながる予定。

 まず「江戸前」をひもとくと、江戸城前面の海で捕れた魚、後に東京湾で捕れた魚介に拡がった、とありました。 そして、「江戸前寿司」は、東京湾で捕れた魚介類の生ものをメインに、コハダ、鯖などをしめたもの、煮穴子や蒸しエビなどの火を通したもの、卵焼きなどの「ネタ」と酢飯を握りあわせたものを言い、世界共通語の「SUSHI」はこの江戸前寿司を指すということでした。
 そういえば、桶寿司といったら、赤身、白身、車エビ、シャコ、そして貝がつきもの。実は、白身を代表するカレイと車エビ、貝は干潟と密接な関わりを持っていたのです。

 ご存じの方も多いと思いますが、干潟には川と海から有機物が流れ込み、潮の干潮による酸素の供給もあって、その底には有機物やそれを分解するバクテリアが生息しています。プランクトンやカニ、貝はこれらを食べて成長し、こうした底生生物を魚や鳥などが餌にします(藤前干潟が渡り鳥の楽園といわれる所以ですね)。
 寿司屋の大将が言うのは、伊勢湾で捕れた青柳(貝の一種)は、東京湾以上のおいしさだそうで、それを名古屋人が知らないことが歯がゆい様子でしたが、おいしさの秘密は、ここにあるのかもしれませんね。
 そして続いてシャコや車エビですが、幼生のある時期を干潟の泥の中で過ごし、カレイは干潟を産卵場所にしているというから驚きです。


*同僚が潮干狩りで採ってきた青柳。通称「バカ貝」と呼ばれている。

 今、名古屋市内に漁師さんはいませんが、名古屋の近郊伊勢湾を望む知多半島には漁業の盛んな地区があり、知多半島の市場に行くと、活きのいいクルマエビやカレイ、そしてシャコを目にすることがあります。そういえば、名古屋と言えば「エビフライ」。愛知県の魚は「車エビ」。これが藤前干潟と関係してのことだとしたら、楽しいですよね。
 徳川家康が、地元の名古屋に幕府を開いてくれたら、寿司は江戸前ならぬ「尾張前寿司」になっていたかもしれないと思うのは、郷土愛からですが、もし名古屋に来る機会があったら、きしめん、味噌カツ、味噌煮込みに加え、車エビやカレイ、シャコといった伊勢湾育ちの魚も食べていってくださいね。
 それではまたアクティブレンジャー日記でお会いしましょう。
~COP10まであと1年3ヶ月~