アクティブ・レンジャー中部地区
見えざる脅威――ニホンジカ
2025年10月03日 こんにちは。乗鞍・白骨温泉アクティブ・レンジャーの中岡です。
今年度、ニホンジカの影響調査が中部山岳国立公園全体で行われており、乗鞍高原でも目下実施中です。
乗鞍高原では、今や国内でも貴重になりつつある良好な草原環境が保たれています。一方で、近年は各地の森林や草地の下層植生に劇的な被害をもたらしているニホンジカの目撃や食痕が着実に増え始めており、侵入の本格化が懸念される状況です。
自分も何度か調査に同行させてもらいましたので、今回はその調査の最新状況を現場からお伝えします。
①まずは食痕調査。
シカの居そうなエリア内に10m×10mのコドラート(四角で区切った範囲)を設定し、その範囲内に生えている草木を一本一本丹念に見て、食害の有無を記録していきます。根気の要る地道な作業のため、一地点の調査をするのに一時間半もかかります!
正式な解析は今後ですが、実際の調査に立ち会った印象としては「思ったよりずっと(痕跡が)多いな……」というのが実感です。地点によってシカの好む植物がかなり食べられた形跡も見つかりました。遠景を見ているだけでは見逃してしまうような影響が既に足元で出始めていることが分かり、このまま放っておいてはならないという危機感が強まりました。
②次に、自動撮影カメラの設置。
カメラは、周囲の地形や食痕、獣道等の様子から「ここは居そうだな?」というところにアタリを付け、適当な樹木に設置します。現在、高原内で十数台のカメラを運用中です。
設置は6月から行っているのですが、①の食痕調査以上に衝撃的だったのがこのデータの中身です。継続的に、かなりの頭数のシカが行き来し、採食する様子が写っていました。特に注目したいのは親子のシカが写っていたことで、シカ専門員によると、これは乗鞍高原内で繁殖をしているサインとのこと。すでに分布拡大初期を過ぎ、増加相と呼ばれるフェーズに入っている模様です。
今年度の調査結果は年度末に取りまとめられ、来年度以降の対策立案に活かされる予定ですが、現段階で想像以上に深刻な状況であることが分かってきました。
乗鞍高原の価値ある景観や植生を守るため、引き続き、状況を注視していきたいと思います。