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中部地方環境事務所

底生生物と底質環境の変動

はじめに

藤前干潟は、伊勢湾の最奥部に位置し、名古屋港に注ぐ庄内川、新川、日光川の3つの河川が合流する河口部に広がる場所です。かつて廃棄物処理用地として埋め立てる計画がありましたが、都市部にある貴重な生物生息場所として、市民活動によって保全された場所です。
国指定藤前干潟鳥獣保護区では、自然環境の現状を評価する目的で、これまで鳥類調査の他に底生生物調査や干潟の底質調査が行われてきました。
平成24年にラムサール条約登録10周年を迎え、現在の藤前干潟が10年前と比べてどのように変化したのか、底質環境と底生生物について過去と現在を既往の調査結果(平成14年度保全活用推進調査、平成22年度ラムサール条約湿地藤前干潟底生生物調査)を用いて比較しました。

調査地区の概要及び調査地点

調査地区は国指定鳥獣保護区及び特別保護地区内を以下の4つに区分けした地域としています。

A : 藤前干潟
流れがほとんど無い止水環境です。
春期の干潟干出は大きいですが、
秋期はほとんど干出しない特徴があります。
写真:藤前干潟 写真:調査地点図
調査地点図
B : 新川河口干潟
庄内川と新川を分ける導流堤の先端付近に
干潟が干出します。
写真:新川河口干潟
C : 庄内川河口干潟1(明徳橋~23号線)
両岸にはヨシ原が形成されており、干潮時には水際の干潟が干出します。
干潟の干出部は他地区と比較すると僅かです。
写真:庄内川河口干潟1
D : 庄内川河口干潟2(永徳スリップ~特別保護地区区域線)
藤前干潟地区の中で干潟の干出時間が最も長い場所です。
写真:庄内川河口干潟2
  • ※調査は干潟が広く干出する大潮期の干潮時間を中心に実施され、調査結果は秋期(9、10月)のものを使用しています。

底質環境の変遷(シルト ・ 粘土分の変化)

藤前干潟(A)、新川河口干潟(B)、庄内川河口干潟2(D)では、10年前と比べてシルト ・ 粘土分がやや減少し、庄内川河口干潟1(C)では著しく増加しました。
藤前干潟(A)と庄内川河口干潟2(D)では、10年前に比べて僅かに減少(約5~10%)しましたが、新川河口干潟(B)では約32%も減少しており、底質中に含まれるシルト ・ 粘土分は半減しました。一方、庄内川河口干潟1(C)についてはシルト ・ 粘土分が約70%も増加し、著しく軟泥化しました。

図:底質環境の変遷(シルト・粘土分の変化)

底生生物の変遷

【個体数】

藤前干潟(A)を除いて増加傾向にあり、特に庄内川河口干潟1、2(C,D)での増加が著しく、増加量はそれぞれ1075個体、500個体となっています。
底生生物は、平成13年に新川河口干潟(B)で最も多く出現していましたが、10年後には庄内川河口干潟1(C)での出現個体数が最も多くなりました。

図:底生生物の変遷 個体数

【種数】

全ての地点において増加傾向にあります。藤前干潟(A)、新川河口干潟(B)、庄内川河口干潟1(C)では、それぞれ4~7種の増加が見られました。
庄内川河口干潟2(D)では11種が新たに見つかっており、調査区域内で最も種数が多く、10年前に確認されていた種数の2倍以上の生物が確認されています。

図:底生生物の変遷 種数

【湿重量】

全ての地点で増加傾向にあります。新川河口干潟(B)で湿重量が大きくなる傾向は、10年経った現在でも同様に見られますが、その増加量は他地点と比べて非常に大きいです。

図:底生生物の変遷 湿重量

【分布(平成22年現在)】

藤前干潟(A)では軟体動物が多く出現しており、微小巻貝のエドガワミズゴマツボが優占しています。また、日光川が流入する地点では、二枚貝のヤマトシジミが多く出現する傾向が見られています。
新川河口干潟(B)では、ヤマトオサガニや、ソトオリガイ等の大型二枚貝類が優占しています。特に導流堤に近い地点では、付着性二枚貝のマガキやコウロエンカワヒバリガイも多く見られています。
庄内川河口干潟上流部に位置する地点Cでは、他地点と比較して環形動物が多く出現しているのが特徴であり、ゴカイ科やイトゴカイ科が優占しています。
庄内川最下流部の地点Dでは、二枚貝のヤマトシジミや節足動物のユンボソコエビ科が多く出現しています。

レッドリスト掲載種

平成22年度の調査で確認された種を各種行政機関の最新のレッドリストと照合しました。その結果、環境省レッドリスト(平成24年改訂)に記載されている種が18種、愛知県レッドデータブック(平成21年)に記載されている種が16種、名古屋市のレッドデータブック(平成22年)に記載されている種が20種類確認されています(表1)。

表-1 レッドリスト掲載種
表:表-1 レッドリスト掲載種
カテゴリー(ランク)の概要
表:カテゴリー(ランク)の概要

平成22年度底生生物調査等業務報告書より

  • 赤字は平成22年度に新たに追加された種

まとめ

【底質】

藤前干潟(A)、新川河口干潟(B)、庄内川河口干潟2(D)では、10年前と比べてシルト ・ 粘土分がやや減少して砂泥化しましたが、庄内川河口干潟1(C)ではシルト ・ 粘土分が急増して、局所的に軟泥化しました。
しかし、庄内川河口干潟全体(C、D)として見ると、上流からの土砂の供給があるため、経年的にも安定した状態が維持されています。

【底生生物】

  • ○底生生物の個体数は、藤前干潟(A)を除いて増加傾向にあり、特に庄内川河口干潟(C、D)では著しい増加が見られています。
  • ○種数は全ての地点で増加傾向にあり、庄内川河口干潟2(D)が最も種数が多いという結果となっています。
  • ○湿重量は全ての地点で増加傾向にあり、新川河口干潟(B)において増加量が最も大きくなりました。

底生生物の過去と現在を比較すると、底生生物の個体数や種数、湿重量は概ね増加傾向にありました。レッドリストに記載されている種の記録も増加しましたが、これは、10年前は、干潟と直接関係する泥の中の生物を対象とした調査が中心に行われてきたためであり、現在は生物多様性保全の観点から、泥の上やヨシ原に至るまで干潟の周辺環境に生きる生物にも着目していくよう調査の手法が変化したためです。