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【開催報告】「生物多様性白書を読むセミナー」~里山里海の利用と保全活動が創る北陸地方の生物多様性~を開催しました
2009.10.13 中部地方環境事務所
中部地方環境事務所では、生物多様性の保全及び持続可能な利用の重要性についての理解を深めるため、平成21年9月24日(木)に「生物多様性白書を読むセミナー」を石川県金沢市(石川県生涯学習センター)にて開催しました。その概要を報告いたします。
○開会挨拶
主催者を代表して、環境省中部地方環境事務所細川真宏総務課長より、生物多様性という言葉自体まだ一般に知られていないこと、これを機会として広く皆さんに生物多様性とは何なのか考えていただきたい旨挨拶がされ、開会となりました。
「開会」
○講演
生物多様性についての理解を深めて頂くため、平成21年6月に策定された「生物多様性白書」を用いて中部地方環境事務所から講演を行うとともに、北陸を中心として活動されている研究者の方2名を迎え、生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組の視点について、ご自身の活動紹介を交えたお話をしていただきました。
1.生物多様性白書を読む~生物多様性条約COP10に向けて~
講演者:環境省中部地方環境事務所 統括自然保護企画官 田村省二
参加者の方々が生物多様性についての理解を深められるよう、環境白書の一部から今年より独立して策定された「生物多様性白書」を題材として、生物多様性とは何か、世界と日本における生物多様性の現状、保全施策、取組事例などを紹介しました。
また、来年10月に愛知県名古屋市で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(CBD/COP10)についても触れ、日本から何が発信されるべきなのか、そのための各々の理解が呼びかけられました。
「田村統括自然保護企画官」
2.能登・白山の里と海におけるフィールドワークを通じた、地域の暮らしと生物多様性 保全・持続可能な利用について
講演者:国連大学高等研究所 いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット
所長 あん・まくどなるど氏
日本のみならず、世界のいろいろなフィールドを歩かれているあん所長より、日本の農山漁村の暮らしと自然の移り変わり、生物多様性に配慮した農業と経済社会の現状との葛藤や克服など、現場の映像を交えてお話がありました。また、地球温暖化への適応策を考えるためには、地域で栽培されてきた多様な品種などについての伝統的知識の有用性について改めて見直すべきとの提案がありました。
「あん・まくどなるど所長」
3.里山の現状、問題点、再生:金沢大学の取り組み
講演者:金沢大学環日本海域環境研究センター長 中村浩二教授
金沢大学が取り組んでいる能登半島での里山再生の担い手育成、金沢市内の里山保全活動についてご紹介頂きながら、今後越えなければならない課題についてお話しがありました。
特に、里山の保全は環境と経済の好循環をもたらして地域を活性化する活動であり、生物多様性の保全と持続可能な地域社会を両立していかなければならないこと、国や県等で行われている環境保全のための様々な事業間の調整を担う主体が必要であること、また、COP10の開催を契機として、里山里海サブグローバル評価を推進していきたいというお話しがありました。
「中村浩二教授」
○パネルディスカッション・意見交換
上記講演内容を参加者にお聞きいただいた上で、講演者への質問を受け付け、その中よりいくつか選んで講演者の方々に意見交換していただきました。
あん所長からは、地域に求められる視点について、地場産業の強化と地球温暖化対策にもつながるフードマイレージや、緑(陸域)だけではなく海の保全とも一体的に考えるといった、より視野を広く持った形で環境問題を考え、解決してゆくことの必要性が指摘されました。また、「生物多様性」という用語について、農山漁村で暮らす人々は知らない人がほとんどだが、目の前にいる生物の状況や変化を敏感に感じ取っており、その中にも貴重なデータが眠っているというコメントがありました。
中村教授からは、里山里海の担い手育成活動について、大学で始めた取組を契機に、それを地域に根付かせること、そのためには地域の受け皿を創ることが必要であることが指摘されるとともに、様々な現場や大学の研究活動等のデータを総括的に整理し、活用する必要があることが提起されました。
また、田村企画官からは、各県等で実施されている事業やデータをつなぐためにも、地方行政機関でセクターを越えるコーディネートをしていく必要性があることが指摘されました。
「意見交換の様子」
今回、北陸地方で初めて生物多様性を理解していただくためのセミナーを開きましたが、108名という大勢の方々に参加いただくことができました。北陸でも里山・里海の生物多様性が危機に瀕し、その保全の担い手が不足していることが課題として明らかになりました。そのような状況を改善していくためにも、行政には生物多様性を理解していただくためのさらなる取組が望まれ、地域では保全活動を継続して行う必要性が改めて認識されました。