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信越自然環境事務所

報道発表資料

2024年06月28日
  • 報道発表

野生ライチョウの精子を用いた人工授精個体の孵化について

 令和6年5月25日及び26日に乗鞍岳の野生雄から採取した精液を用いて富山市ファミリーパークで飼育している雌5個体に人工授精を行いました。これら5個体から得られた12卵を人工孵化し、6月28日に2羽の孵化が確認されました。
 野生の雄からの精子採取及び人工授精による雛の誕生は今回が国内初の事例となります。
 野生個体からの精子採取及び人工授精技術は、野生集団への影響を最小限にしながら生息域外集団へ新たな遺伝子を導入する技術として、今後のライチョウ生息域外保全において重要な役割を果たす見込みです。

1.これまでの経緯と事業概要

 環境省と(公社)日本動物園水族館協会(以下、JAZA)は、平成26年に締結した「生物多様性保全の推進に関する基本協定」に基づき、平成27年からライチョウ保護増殖事業・生息域外保全に取り組んできました。この事業の中では、生息域外個体の飼育繁殖技術の開発や、野生復帰を目指した個体飼育の他、飼育個体を用いた人工授精による繁殖にも取り組んできました。
 野生個体からの精子採取及び人工授精技術は、野生集団への影響を最小限にしながら生息域外集団へ新たな遺伝子を導入することができます。この技術は個体数が減少してしまった山岳からのファウンダー確保などにも応用できる重要な技術です。
 人工授精技術については、令和3年より恩賜上野動物園及び横浜市繁殖センターの2園が主体となって取り組み、これまでに精子採取や低温保存技術の開発等において一定の成果が見られました。

2.令和6年の取り組み

(1)野生個体からの精子採取
 令和6年5月25日、26日に乗鞍岳に生息する雄計7個体から精子採取を試み、5個体で成功しました。精子採取に当たっては、これまで人工受精技術の開発に取り組んできた恩賜上野動物園、横浜市繁殖センターの職員らJAZA職員と環境省職員が共同で実施しました。
 このうち、不純物の混入がなく、精子活性が高い等人工授精を行うことに十分であると判断された3個体分の精子について富山市ファミリーパークで飼育している個体を対象に人工授精を行うこととしました。

(2)人工授精
 これまでの取り組みから精子の低温運搬技術は確立されていましたが、乗鞍岳から比較的距離が近く人工授精が可能な園として富山市ファミリーパークが選定されました。採取した精子は5月25日、26日両日共に採取直後に富山市ファミリーパークへ運搬し、その日のうちに検査及び人工授精を行いました。人工授精については合計で雌5個体に対して行いました。これらの個体から6月5日までに得られた12卵を人工孵卵しました。

(3)孵化結果
令和6年6月28日(金)AM3時20分に1羽目の孵化を確認
    6月28日(金)AM10時14分に2羽目の孵化を確認

※現在のところ展示公開の予定はありません。

3.今後の予定

 今回孵化した雛は人の手で育てていく予定です。また、中央アルプスへ野生復帰させる個体の候補とはせず、成長後は保険集団へ合流させる予定です。

お問い合わせ先

環境省信越自然環境事務所 野生生物課 小林 篤
TEL:026-231-6573
E-mail:NCO-NAGANO@env.go.jp