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信越自然環境事務所

報道発表資料

2023年09月15日
  • 報道発表

令和5年度中央アルプスにおけるライチョウの野生復帰事業の実施について

 中央アルプスにおけるライチョウ野生復帰実施計画(以下「実施計画」という。)に基づき、令和3年に中央アルプスから野外個体を動物園に導入して繁殖させた家族を令和4年に中央アルプスに放鳥した。これらの個体は令和5年度も中央アルプスで生存しており、繁殖も確認されたことから個体群復活に寄与している。
 一方で、今シーズンは、中央アルプス由来の飼育個体から雛は誕生しなかったことに加え、雌個体1個体が那須どうぶつ王国で死亡した。現在残された野生復帰可能な中央アルプス由来個体は雌1個体、雄2個体であり、この雌個体は2年連続で卵を産んでいない。野生個体の継続飼育と繁殖の困難さが明らかになった。
 現在残っている中央アルプス由来の雌は1個体であり、次年度に実施可能な中央アルプス由来のライチョウの野生復帰については最大1家族と当初の実施計画よりも少なくなる。継続飼育による個体の死亡リスクや、コストなども考えると、個体が健全なうちに野生復帰を実施することとする。
 野生復帰させる個体は那須どうぶつ王国の雄1個体、茶臼山動物園の雄1個体、雌1個体の合計3個体であり、いずれも成鳥。動物園から中央アルプスへの移送は9月26日に実施し、現地で1週間程度保護した後、放鳥する予定。
 次年度以降は、保険集団を用いた野生復帰手法の開発に取り組む予定。

1.中央アルプスから導入した個体の飼育結果

令和3年8月1日
 野生家族の動物園への導入
 ① ​那須どうぶつ王国:7個体(雌1、雄雛2、雌雛4)
 ② 茶臼山動物園:4個体(雌1、雄雛1、雌雛2)
  (翌1月には両園の雄個体同士を繁殖のため交換)
令和3年9月13日
 那須どうぶつ王国で雌親1個体が死亡。
令和4年8月10日
 那須どうぶつ王国から雌3個体と雛16個体、茶臼山動物園からは雌2個体、雄1個体の合計22個体を野生復帰させた。茶臼山動物園では雛は誕生したものの全羽が死亡したため、雛の野生復帰は実施できなかった。
 両園それぞれ雌雄1個体、合計4個体を継続飼育。その他、那須どうぶつ王国では骨折し放鳥できなくなった雌雛1個体も飼育してきた。

2.令和5年度の飼育状況

(1)那須どうぶつ王国
   1ペアで繁殖開始。しかし、6月30日に雌個体が死亡。
   (保険集団から合流させた雌1個体も野生復帰施設で繁殖を実施し、9月現在雛3個体を育雛中。)
(2)茶臼山動物園
   1ペアで繁殖開始。産卵の兆候が見られず今年の繁殖を断念。

3.野生復帰個体の生存状況

(1)個体の生存状況
   成鳥6個体(雄1、雌5)のうち3個体(雄1、雌2)が生存。
   雛16個体のうち5個体(雄2、雌3)が生存。
(2)繁殖状況
   ①放鳥時成鳥
   雄1個体、雌2個体ともつがいを形成していた。
   雌1個体については雛を孵化させていたためケージ保護を実施した。
   別の雌については雛が誕生したか不明。
   ②放鳥時雛
   雄2個体のうち2個体ともあぶれ雄の可能性。
   雌3個体はいずれもつがいになっており、少なくとも雌2個体で雛の誕生を確認。このうち雌1個体についてはケージ保護を実施した。

4.令和5年度の野生復帰に至った経緯

(1)令和6年度事業のリスク及びコスト面への配慮
 本来の計画では、今年動物園で繁殖して増えた雛を元に次年度複数家族を繁殖させて野生復帰する予定であったが、現在残されている繁殖可能な中央アルプス由来の雌個体は1個体と当初の想定よりも大きく減少してしまった。さらに、この雌個体は2年連続で産卵が見られておらず、次年度も雛を残すことができない可能性も十分ある。
 また、中央アルプス由来家族については次年度にヘリコプターを用いた空輸を計画していたが、移送する家族が少ない(もしくはいない)ことになるため、費用対効果が非常に低い。

(2)野生個体飼育の困難さの顕在化
 昨年度については那須どうぶつ王国で3家族の繁殖が成功する等大きな成果を残すことができた。一方で、屋外環境を利用した飼育環境は高温等の影響を受けやすいことや、個体導入から2年間で2個体に死亡に至ったこと等、継続して野生個体を飼育し、繁殖させることの困難さが明らかになってきた。

(3)保険集団からの野生復帰手法開発への注力のため
 (1)と(2)の理由から、次年度まで個体を飼育して繁殖させるよりも、令和5年度に個体を放鳥する方が中央アルプスで繁殖する可能性があり、各種リスク低減(飼育下での個体維持)に繋がり、放鳥後は動物園施設での生息域外集団を利用した野生復帰に注力する方が保全上効果的であると判断した。
 なお、本取組は実施計画上位置づけられている令和6年度以降の生息域外集団からの放鳥(当歳亜成鳥による放鳥)に向けた、個体の陸送や中央アルプスでの野生順化を含む野生復帰試験として位置づけ、令和5年度の9月末に実施を予定する。

5.次年度以降の野生復帰事業について

(1)令和5年度に実施する中央アルプス由来個体の野生復帰について
 9月26日を目処に現在飼育している中央アルプス由来の3個体を中央アルプスへ移送する。移送については車、ロープウェー、徒歩を組み合わせて行う。
(2)今後の野生復帰事業について
 野生個体を用いたライチョウの野生復帰は終了するが、次年度以降は保険集団を用いた中央アルプスへのライチョウの野生復帰事業を継続する。放鳥時期等は今年度末に開催される「令和5年度ライチョウ保護増殖検討会」等で議論の上、決定する。

6.ライチョウ移送日の報道対応について

 移送当日については、千畳敷に午後到着する見込み。当日取材については千畳敷(千畳敷駅で移送人員を待ち受け、運び出す様子の撮影まで)とし、頂上山荘に設置したケージへのライチョウ搬入については映像を提供することで対応したい。移送当日に千畳敷での取材を希望する社については以下の連絡先まで9月22日(金)17時までに社名、取材人数、代表者の連絡先を連絡すること。なお、個体の放鳥時には頂上山荘にて取材対応を検討している。放鳥に関する取材対応については別途連絡する。また、荒天により移送が難しいと判断された場合は、9月25日(月)13時までに申し込み社に連絡する予定。

 連絡先:環境省信越自然環境事務所 野生生物課 小林
 TEL:026-231-6573  E-mail:NCO-NAGANO@env.go.jp

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