環境省ちゅうぶ環境メールマガジン コラム(第24号)
福井のアベサンショウウオについて
福井県両生類爬虫類研究会長
環境省希少野生動植物種存続推進員 長谷川 巌
全長10cm前後の小型サンショウウオであるアベサンショウウオは夜行性で、山麓帯の湧水のある湿地や休耕田で降雪の前の厳寒期に繁殖期を迎える特異な生活史を持つ。背は暗褐色、腹は淡褐色で繁殖期のオスの尾はヒレ状に肥大し、産出された卵嚢表面には細かい明瞭な縦の条線を持ち、日本の小型サンショウウオ19種の中でも生息域が非常に狭いのが特徴である。このアベサンショウウオは佐藤井岐雄氏が1932年に基準産地の京都府丹後市町善王寺・峰山町長岡で確認し、形態や生活史から、恩師の阿部余四雄氏に献名して新種登録された。90年代以降、京都大学院松井正文教授らにより、京都府下丹後半島・兵庫県下但馬地方の局所的な個体群が発見され、その後、ワシントン条約や生物多様性条約の締結、希少野生動植物の危機等が叫ばれ、91年に編成されたレッドデータリスト(RDB)で絶滅危惧1A類に分類され、92年に制定された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」では、両生類で唯一このアベサンショウウオだけが指定された。
その後、福井県両生爬虫類研究会員により福井県北部丘陵地や嶺南東部地域、越前市西部地域、石川県南加賀地域の丘陵地での生息が確認された。嶺南東部産アベサンショウウオは前肢後肢共に4指であり、ミトコンドリアDANの遺伝子解析により福井県越前市以北、京都府・兵庫県グループとは独立したグループであることも判明した。また、福井県の3生息地は日本全産卵地数の93%を占める広範囲であることも明らかとなった。
しかし一般住民には種の保存法もアベサンショウウオの重要性も未だ認知されていないため、産卵地が土地改良工事や埋め立・不法投棄の場所等として消失している。また、山麓帯の生息地も放置され、林道開発・砂防工事等で消滅しているのも現実である。更にアベサンショウウオに興味関心を持つ人も未だ少ないため一層の啓蒙活動の必要性が求められる。
その中で、現在、越前市西部地域を中心に長谷川らと地区住民とが共同で、小中学生の環境学習での生き物調査やビオトープ造成を行い、特に生き物に興味関心のある地元住民は希少野生生物保全指導員となり、アベサンショウウオ中心に地元の稀少野生動植物種の監視活動や生息状況調査等を展開している。その他、「農村景観・自然環境保全再生パイロット事業」で生息地の谷田一帯をビオトープ化し、外来種のブラックバスやアメリカザリガニの駆除を行っている。また、「農地・水・農村環境向上対策事業」でも生息地の17集落が生き物調査活動と湿地の整備活動を展開した結果、RDBリスト種が40種も生息することが判明し、これらの生き物は地域の宝であるとの自覚が芽生え、生息地の整備により産卵地が飛躍的に増大し、減農薬農法の取組み等生き物と共生する姿勢が見られてきた。今後は福井県北部地域や嶺南東部地域のアベサンショウウオの保全活動を地元住民と協働で展開していく計画である。