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信越自然環境事務所

報道発表資料

2019年10月11日
  • その他

南アルプスにおけるライチョウケージ保護及び捕食者対策事業の実施結果について

 ライチョウ保護増殖事業の一環として南アルプス北部の北岳で実施しているケージ保護(平成27年度から実施)及び捕食者対策事業(平成29年度から実施)によって、事業開始当初から5年間で生息数が3.5倍に回復し、事業の有効性が確認されました。

 また、ケージ保護放鳥個体の分散状況確認調査により南アルプス南部の赤石岳付近で放鳥個体を確認し、一部地域での保全活動が山岳全域の個体数回復に寄与することが示唆されました。

1.ケージ保護事業実施状況

(1)ライチョウは孵化直後の初期死亡率が非常に高い種で、初期死亡要因(悪天候やテンやキツネによる捕食)を低減するため、1ヶ月間程度ケージを用い保護する取組を5年間継続しました。実施場所は、ライチョウ生息地のなかでも地域絶滅に近かった南アルプス北部の北岳(北岳山荘付近)で行いました。

(2)令和元年度は、7月上旬からケージ保護を開始し、1ヶ月保護した8月上旬に3家族16羽のヒナを放鳥しました。9月下旬の確認調査においても放鳥2ヶ月後で10羽のヒナが生存していることを確認しました。

(3)平成28年度以降は3家族でケージ保護を実施しており、5年間で72羽のヒナを放鳥しました。放鳥後のヒナは、捕食者対策を実施しない段階では約半数のヒナが死亡したと考えられますが、平成29年度の捕食者対策実施以降はヒナの生存率は上がりました。

表1 ケージ保護実施状況と放鳥後のヒナの生存状況

ケージ保護実施年 実施家族数 放鳥ヒナ数

放鳥2ヶ月後の生存確認数

(カッコ内は標識数)

備考

平成27年(2015)

2 10

0(0)

平成28年(2016) 3 15 2(3)
平成29年(2017) 3 16 15(15)

捕食者対策

実施

平成30年(2018) 3 15 11(10)
令和元年(2019) 3 16 10(11)
合計 14 72

38(39)

※ヒナの成長に配慮し、放鳥1ヶ月後に足環標識を行なっている。

2.捕食者対策事業実施状況

(1)ケージ保護実施当初、放鳥個体の生存率が非常に低いことや、ケージがテンに襲われる事例が確認されました。このため、平成29年度から3年間の試験として、北岳周辺において山小屋の協力のもと、ライチョウの捕食者となるテンやキツネを捕獲する事業を実施しました。

(2)平成29年から令和元年度までの3カ年で18頭のテンと1頭のキツネを捕獲しており、捕食者対策実施以降にケージ保護放鳥個体の生存率が上がったことから、ケージ保護と捕食者対策を併用することがライチョウの保全に有効であり、テンによる捕食圧が当地域でのライチョウの減少要因であることが示唆されました。

表2 捕食者対策実施状況

捕食者対策実施年

捕獲数

備考

テン

キツネ

平成29年

(2017)

8

平成30年

(2018)

7

1

令和元年

(2019)

3

10月9日現在

合計

18

1

3.生息数の回復について

南アルプス白根三山地域におけるライチョウのなわばり数は、平成27年度開始当初の9から5年間で32となり、統計のある1981年当時の半分にまで回復しました。

4.ケージ保護放鳥個体の分散状況

ケージ保護放鳥個体72羽のうち、放鳥以降の翌年以降には10羽の若鳥を確認しており、令和元年8月下旬の調査では、平成292017)年に放鳥した雌が南アルプス南部の赤石岳にまで移動したことが確認されました。また、若鳥については、個体のほぼ全てが繁殖に参加しており、北岳でのケージ保護等事業が南アルプス全域の生息数の回復に寄与していることが示唆されました。

5.まとめ

(1)ケージ保護及び捕食者対策事業によって、5年間でなわばり数が3.5倍になり、本来の生息数と考えられる1981年当時の半分まで回復しました。この結果から、当地域でのライチョウの主な減少要因が捕食者の存在であることが挙げられ、保全技術としてケージ保護及び捕食者対策が有効であることが確認されました。

(2)今後、南アルプス北部におけるケージ保護事業は終了し、捕食者対策事業については、ライチョウ捕食者対策ワーキング等で継続の方向性を検討していきます。

(3)ケージ保護放鳥個体以外のこれまでの標識調査では数例しか確認されていなかった雌の長距離移動について、ケージ保護放鳥個体の長距離移動が2例確認され、令和元年8月の調査で確認された個体は、南アルプス北部の北岳から南部の赤石岳まで22kmを移動していたことがわかりました。これにより、山が連続する山域においては、一部地域での保全活動が雌の分散によって山域全体の保全に寄与することがわかり、今後の保全活動の検討の際の重要なデータとなりました。

添付資料